長期金利の上昇が連日のように日経新聞で報道されています。このような局面では、我々個人のマネーストラテジーとしては、個人向け国債に代表されるような変動金利建て商品を保有することが有利であることは、先日述べた通りですが、今日は長期金利の上昇により、企業はどのような影響を受けるかを考えてみたいと思います。
直観的には、「長期金利上昇 → 金利の支払負担が増える → 純利益が増える → 企業経営は苦しくなる」といったところでしょうか?本日の日経新聞朝刊でも、借入の多い企業は返済を急いでいるとの記述があり、この流れに沿ったものです。
一方で、長期金利が上昇することで、企業経営にとってプラスになることもあるのです。本日の日経新聞にも数行ふれれていましたが、実は企業年金にとってはプラスになるのです。なぜ、長期金利の上昇が企業年金にとってプラスに作用するかと言えば、理由は2つあります。
第一の理由は、これは日経紙面にも触れられていたことですが、企業年金は株式のみならず、債券でも運用を行っており、長期金利が上昇することにより、債券での運用の利回りが上昇するからです。これは、わかりやすい理由です。
第二の理由は、年金債務の会計処理に関する知識がないと、理解できません。企業年金の仕組がある企業においては、退職給付引当金という長期の債務が計上されています。この退職給付引当金の債務として計上すべき金額を計算するのは、実はかなり大変な作業なのです。
社債を100億円発行している企業は、その社債によりやはり100億円の債務を計上します。これはいたって簡単です。ところが、退職給付引当金は社債のように、計上すべき明白な金額がありません。まず、債務として計上すべき金額を計算するには、将来、その企業で働く従業員に対して退職金及び年金をいくらくらい支払わねばならないか見積もらねばなりません。これは大変な作業です。年金をもらう前に会社を飛び出してしまう人もいれば、中途採用でこれから入ってくる人にも年金を払うわけですから、容易な作業ではありません。
大変な作業ではありますが、将来の退職金・年金の支払額が見積もれたとします。その金額が債務として計上すべき金額かというと、そうではなく、見積もった金額を現在価値に割り引くという作業をせねばなりません。1年後にもらえる1万円と10年後にもらえる1万円のどちらを選ぶかといわれれば、みなさんは当然1年後の1万円を選びます。なぜなら、1年後の1万円を銀行に9年預けておけば、10年後には確実に1万円以上になっているからです。つまり、将来のお金は、今のお金より価値が低いのです。したがって、退職金のような将来支払う債務を計上するときは、今のお金の価値に割り引いてやらなければなりません。これが現在価値に割り引くという意味です。
現在価値に割り引く際に用いられるのが、実は今話題になっている、国債の利回りなのです。将来受け取るお金を国債の利回りをベースにした数字で割ってやって、現在価値を計算します。長期金利は上昇しているわけですから、国債の利回りも上昇していて、割る方の分母の数が大きくなれば、計算結果は小さくなります。したがって、長期金利が上昇すると退職給付引当金は減少するのです。
負債の額が減少すると、その裏返しとして、利益を計上することになります。現在の長期金利の上昇のペースを考えると、来年の3月決算の時期には、企業年金を運営する多くの企業が、かなり多額の特別利益を計上することが予想されます。多額の特別利益が計上されるなら、株はカイかと言うと、そう単純ではありません。冒頭に述べたように、利払いの増加によるデメリットもあります。また、退職給付会計から生ずる特別利益は、企業の本業に関係なく、企業価値を本質的に増加させる類のものではありません。やはり、株で儲けるのは難しいのです。