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2004年11月22日

キャノンの生産戦略に死角はないのか?

キャノンが国内生産の4分の1を無人化するとの報道が、本日の日経紙面のトップを飾りました。キャノンといえば、セル生産方式で知られているように、大胆な生産革新で成功を収めている企業です。今回の生産無人化がキャノンの経営に与えるインパクトについて、セル生産方式と対比することで考えてみたいと思います。
【セル生産方式とは?】
まず、セル生産方式自体が初耳の方に、簡単に解説をしておきます。セル生産方式とは、ベルトコンベアを使った分業を否定して、一人一人の組立工が多能工となり、一つの製品の組立ての最後まで、一人で担当させる生産方式のことを言います。「分業」を否定してしまうわけですから、一見生産性が落ちるような気がしますが、導入当初は若干生産性が落ちるものの、セル生産方式の方がベルトコンベア方式より高い生産性を示すことが確認されています。セル生産方式の生産性の高さの秘密は、人間心理にあります。ベルトコンベアの1工程を担わされ、歯車の一つとしての仕事を延々と繰り返すより、ものを1から作り上げる方が得られる満足度は高く、またそれゆえに、品質への責任の意識も徹底されるのです。
セル生産方式を導入するにあたっては、それほど大きなリスクは伴いません。なぜなら、ベルトコンベアを廃し、人員配置を替え、適切な教育を行うことくらいがメインの切り替え作業で、ほとんど追加的な設備が伴わないからです。若干、専用の工具を開発することが必要となるらしいですが、たかがしれています。生産性が上がるか否かが確認できるまでは不安が大きいですが、導入にあたって大きなコストを必要としない、というのがセル生産方式のメリットでもあります。
【生産無人化の成功の鍵 ~オペレーティング・レバレッジ~】
もう一方の生産無人化ですが、生産を無人化できれば、直接工の賃金が不要になるわけですから、製造原価に占める変動費の大幅な削減が可能となります。その一方で、無人化で人にとって代わる機械設備を導入せねばならず、かなりの額の固定費の増加を覚悟せねばなりません。また、この自動化にあたり、キャノンは技術者を追加的に600人採用するとしていますが、これらの技術者も固定費増の要因となります。仮に技術者の平均年収を700万円とすれば、年間あたり42億円の固定費増となります。
生産無人化ではこのように、費用構造が固定費にシフトすることとなり、これはセル生産方式では見られなかった現象です。このように固定費に費用構造を転換し、利益の増加を望もうとする戦略をオペレーティング・レバレッジ戦略と呼びますが、オペレーティング・レバレッジの恩恵に預かるためには、大きな売上高が確保されることが不可欠となります。つまり、大胆な生産戦略でありながら、成功の鍵は売上にあり、魅力的なマーケティングプランがあるか否かが、成功の鍵となっているのです。
またキャノンの御手洗社長はアメリカ流の財務指標を重視した経営を行いながら、終身雇用を維持するというのが彼の信条でもあります。今回の生産無人化でうく組立工についても、人員削減は行わず他への配置転換を行うことが、新聞でも明確に謳われています。ということは、なおさら大きな売上が、成功のために必要となってくるわけです。新経営計画では売上高を1.5倍に増やすとのことですが、どれだけ魅力的な製品を作り出せるかに、かかっているといえるでしょう。
【柔軟性という視点】
また、生産無人化において懸念されることは、生産の柔軟性がいくらか損なわれる可能性があるという点です。今日の経営において、柔軟性はどの部門においても、重要なテーマです。財務においては、柔軟性を積極的に評価するリアル・オプションの手法が開花しつつあります。また、マーケティングにおいては、IT技術を駆使し、一人一人の顧客の要求に柔軟に答えていこうとするワン・トゥ・ワン・マーケティングの手法が主流となりつつあります。
こうした時流の中で、生産を無人化することは、どうしても柔軟性を多少損なうことを覚悟せねばならないでしょう。最近の機械設備は多品種少量生産にも対応しうるときいていますが、キャノンがどのような工作機械メーカーと組むのかという点も、今回の計画の成功を左右する大きな要因となりうるでしょう。

Posted by Ken Kodama at 2004年11月22日 11:25
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