先日ご紹介した鋼材の需給ひっ迫等に見られるように、にわかに原材料への需要増に対する製造業の対応策がクローズアップされてきた感があります。本日の日経1面では、塩化ビニール樹脂で世界最大手の信越化学工業が米国に、塩ビを原料から一貫生産する大型工場を新設すると報じられました。サプライチェーンの上流を自前で押さえてしまおうというのが、原材料不足問題への信越化学の出した回答なのです。
本日の日経新聞の情報のみを元にすれば、塩化ビニール樹脂の製造過程は以下のように簡略に書くことができます。
岩塩 → 塩素 → 塩ビモノマー → 塩ビ樹脂
この積極的な投資策を財務的な見地から考えてみるならば、他のメーカーから塩ビモノマーを調達する場合と比べて、信越化学が享受するメリットは以下のようになります。
①輸送コストの低減(新工場は岩塩が豊富な地域に立地されるようですから、岩塩の輸送コストが大幅に低減できます。また中間材料である塩ビモノマーも一貫生産するわけですから、その輸送コストも低減可能となります。)
②塩ビモノマー製造の利潤の確保(内製することにより、これまで外部に流出していた塩ビモノマー製造の利潤を内部に確保することが可能となります。)
③将来、需要が増加したときの機会損失の極小化(全部自前で生産してしまうわけですから、日産のようにサプライヤーの対応に苦慮し、工場を休止させる必要がありません。)
新聞に「モノマーは長期契約を結んでいる米ダウ・ケミカルから調達してきたが、ダウが一部の設備を縮小・停止するなか・・・」という記述がありました。こういう動きがあるのであれば、ダウの縮小する設備を買い取るというオプションもあったはずですが、それにも関わらず自前生産にこだわるのは、①の輸送コストの問題が結構大きかったのではないかと推測されます。
一方のリスクとしては、需要が減少した場合、塩ビ樹脂メーカーとしての痛手とモノマーメーカーとしての痛手を二重にくらうことです。ただし同社の9月30日時点の連結貸借対照表によれば、その当座比率は170%で過剰ともいえる安全性を有しており、1,000億円の投資後も当座比率は140%にまでしか落ちません。また9,000億円強の自己資本にも支えられており、強固な財務体質を持つ信越化学の今回の積極投資策は高く評価されることでしょう。