松井証券とUBS証券が資金調達業務で提携したとの報道です。
「企業が発行する転換社債型新株予約権付社債(CB)などをUBSが引き受け、株式に転換した後に松井がインターネットを通じて個人投資家に販売する。(引用終)」
これが仕組みの骨子なのですが、その狙いは公募増資をアナウンスしたときの株価下落を防止することにあります。そのため、具体的には以下のプロセスを経ることとなります。
「まずUBSが第三者割当形式でCBを引き受け、段階的に株式に転換。その株式を立ち会い終了後に終値より数%低い価格で松井のネット取引画面を使って個人投資家に取り次ぐ。(引用終)」
松井証券の経営理念や手法には感銘を受ける部分が大きいのですが、この仕組みに限っては疑問を感じざるを得ません。その理由は、この仕組みが長期的投資スタンスを採る個人投資家にとってあまりよいとは思えないからです。
ゼロクーポンCBを発行する企業の最大の悩みはそれがヘッジファンドに渡り、いわゆる「空売り保険」として利用され、株が売り込まれてしまうことです。(詳しい仕組みについては弊社発行のメールマガジンの10月号をご参照下さい。)この仕組みを使用すれば、CBのオプション部分がヘッジファンドに渡ることはありえないため、こうしたリスクは回避できます。ただ、「その株式を立ち会い終了後に終値より数%低い価格で松井のネット取引画面を使って個人投資家に取り次ぐ」との記述から推測するに、この仕組みで採用されるCBとは、最近週刊誌等で取り上げられた悪名高きMSCB(Moving Strike Convertible Bond)である可能性が濃厚です。MSCBとはそのときの時価に応じて転換価額が変動する転換社債のことであるので、株式転換時の時価が下がっていれば、発行する株数は当初の予定より増加し、長期ホルダーである個人投資家が被る希薄化のダメージは当初より大幅に増加してしまします。
一時的な需給悪化による株価下落は回避できたとしても、希薄化による本質的な株価の下落は通常の増資をした場合に比べて大きくなる可能性が大だと思います。さらに、松井証券の顧客は終値より数%低く仕入れることができるのですから、デイトレーダー的スタンスの個人投資家は、即売却して薄利を稼ごうをするでしょう。一時的な需給悪化も本当に回避できるのか疑問です。
また、市場が合理的な投資家で構成されるのであれば、資金調達が「増資」という形をとろうと「CBの発行」という形をとろうと、株数増による希薄化の影響を勘案して、価格は同じように形成されていくはずです。今回の新たな資金調達の仕組みは、投資家が合理的でないとの前提にたったものであり、個人投資家を小ばかにしているような気がして、その点でも好きになれません。
松井証券は顧客の声に耳を傾けすぎるあまりに、デイトレーダーのための証券会社になってしまった感があります。長期的ホルダーである個人投資家の声にも耳を傾けてはいただけないでしょうか?