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2004年12月20日

ソニー、プラズマ撤退の衝撃とリアル・オプション

本日の日経1面を、ソニーがプラズマテレビから撤退し、液晶テレビに経営資源を集中させるという報道が飾りました。また、昨日の日経1面の記事は、偶然にも(なのかプレス発表をわざとぶつけたのか知りませんが)、シャープが1500億―2000億円を投じ、三重県亀山市に液晶パネルの新工場を建設するという報道でした。「プラズマVS液晶」の技術的な側面に関しては、残念ながら、私には語るだけの技術的なバックグラウンドはありませんが、本日は「撤退」の選択肢をも評価する投資の意思決定法、すなわちリアル・オプション法について考えてみてみたいと思います。
【NPV法とその限界】
一般に、企業が設備投資の意思決定を行う際において、経済性の評価に用いる手法がNPV法です。NPV法の手法を簡単に記述すると以下の通りです。
①投資により将来得られるCFを見積もる
②投資のリスクに応じた割引率を用いて将来CFを現在価値に割り引く
③②の将来CFの現在価値の合計から初期投資額を差し引き、プラスであれば投資を実行し、マイナスであれば投資を実行しない
大手の企業のほとんどが、NPV法により投資の意思決定をしていることと思われますが、このNPV法にも限界があります。第一の限界は単一のシナリオに基づくものであるという点です。そして、第二の限界が、将来の環境が不確実である場合に、意思決定を誤らせてしまう可能性があるという点です。
NPV法で使用する割引率はプロジェクトのリスクに見合ったものが採用されるため、プロジェクトを取り巻く環境が不確実であればあるほど、高い割引率を使用せねばならず、従って、NPVの値は低く計算されてしまいます。そもそもリスクの高いベンチャー企業においては、より事態は深刻です。なぜなら、ベンチャー企業の行うビジネスは不確実であることが多く、NPV法を厳格に採用していては、なにもできなくなってしまうからです。
【リアル・オプション法とは】
こうしたNPV法の問題点を克服しようと、不確実な環境下での意思決定において採用されるのがリアル・オプション法です。中央経済社発行の『アントレプレナー・ファイナンス』においては、「ベンチャー企業とはリアル・オプションのポートフォリオである」とまでいいきっています。
リアル・オプションは知らないけど、株や債券の金融オプションなら知っているという方も多いと思いますが、本質は同じです。金融オプションは原資産である株や債券を売ったり買ったりする権利のことですが、原資産の値動きが読みづらく市場の不確実性が高い(=ボラティリティーが高い)ほど、オプションの価値は高くなります。なぜなら、株価が上昇するとわかっているなら株そのものを買えばいいわけですし、その逆ならカラウリすればいいわけですけど、不確実で株価が読めない場合はオプションを買うことにより態度が保留しておけるからです。
設備投資の意思決定に使用するリアル・オプション法では、将来の状況の変化に応じて、プロジェクトを延期したり拡張・縮小したり、最悪の場合撤退するといった複数の選択肢の評価が可能となり、今回のソニーが撤退を決めた「液晶テレビ」のような技術革新の著しい分野における意思決定手法としては、最適であるといえるでしょう。
【ソニーのケーススタディ】
薄型テレビの製造が開始された2001年前後の時点においては、プラズマという技術を選択すべきか、液晶という技術を選択すべきかはどちらか一方に絞り込むことは恐らく困難であったことでしょう。両者の技術で製造を開始し、技術動向がある程度はっきりしてきた時点で一方に経営資源を集中させるという青写真を当初から描いていたとすれば驚嘆すべきで、そうした戦略を可能にするのが、リアル・オプション法です。なぜなら、一方の技術から「撤退」するオプションを織り込んで経済性を評価することが可能となるからです。撤退によりプラズマの製造工場は液晶の製造に転用することが可能となり、その転用の価値をも評価することが可能となるのです。ただし、実際にソニーがリアル・オプション法を用いて意思決定を行っているのかどうかは私は知りません。

Posted by Ken Kodama at 2004年12月20日 12:14
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