ブリヂストンが中国と東欧に工場を新設するとの報道です。本日は、この財務面での手当てのみにつき着目しますが、新聞記事によれば「投資額は計500億円を超える見込み(引用)」であり、「投資は主に自己資金のほか金融機関からの借入金で賄う(引用)」との記述があります。実は、ブリヂストンは昨年、ほぼ同額の500億円近くの自社株買いを実施しています。今年、500億円が工場新設のために必要となるのに、昨年、500億円を自社株買いで手元資金を取り崩している・・・これは財務部長と事業部長のコミュニケーションが疎遠であったためなのでしょうか?もちろん、そのようなことはなく、財務理論的に見ても、ブリヂストンの財務戦略は正しく、以下に2つの観点から検証してみたいと思います。
【企業価値の視点】
当サイトで何度となく登場した計算式ですが、企業価値に関する考え方を集約した計算式を以下に再掲致します。
事業価値 + 非事業用資産の価値 = 企業価値 = 負債価値 + 株主価値
さて、自社株買いのために取り崩した手元資金は余剰資金であったため、非事業用資産と考えられ、500億円の自社株買いを実施することにより、左辺からは「非事業用資産の価値」が500億円減少し、右辺からは株主価値が500億円減少します。
さて、工場建設のために500億円が必要となるわけですが、全額を借入により賄うと考えてみましょう。結論から言うと、企業価値の増加額は2つの理由により、500億円以上に増加します。第一の理由は、この資金は工場建設のための資金であるため、事業用の資産となり、寝ている資金ではなく、事業計画によって命を吹き込まれた資金です。工場稼動が成功するとの前提条件がありますが、それがクリアできれば、企業価値は500億円にプラスα分だけ増加するはずです。第二の理由は、負債の節税効果によるものです。利払いは法人税計算上損金に参入できるため、その節税効果分だけ企業価値は高まります。そして、両者の増分は株主に帰属するため、株主価値を高める経営をしているといえるでしょう。
【個々の株主レベルで見た場合】
先ほどは、企業全体で検討しましたが、今度は個々の株主レベルでみてみましょう。自社株買いを行うことは、個々の株主の取り分の増加を意味します。スイカを八等分するところを、4人いなくなれば、四等分の分け前に預かれる、というイメージです。先ほどみた、事業価値による増分及び負債の節税効果による増分を、より少ない株主の間で分配しあうこととなるため、株主にとっては悪いわけがありません。
【その他考慮すべき事項】
「賢明なる投資家」であるためには、ブリヂストンへの投資を考えるにあたっては、以下の事項も考慮せねばなりません。
● 自社株買い実施の価格水準は妥当であったか?
● 財務レバレッジが働く条件は整っているか?
● 安全性の見地からは問題がないか?
上記の論点については、私の発行するメルマガの10月、11月のコンテンツであるため、ご興味のある方はバックナンバーをお求め下さい。
あと、これはかなり乱暴かつ危険な発言として受け止めていただきたいのですが、最近、投資案件の資金を借入や普通社債(転換社債ではありません!!)により賄おうとしている企業は、株主価値を重視した経営を行っていることが多い感があります。もちろん、投資対象企業の分析をしっかりと行う必要はありますが、投資対象をスクリーニングする上で、多少参考になるかもしれません。
Posted by Ken Kodama at 2005年01月07日 10:31