松下電器産業はAV(音響・映像)機器を手掛けるデジタル家電部門の国内従業員を1000人規模で削減するとの報道です。オヤジ的な言い回しを使えば、「勝って兜の緒を締めよ」という感じで、業績が回復した後も、少しも手綱を緩めようとしない経営手法は高く評価したいと思います。ただ、その一方で、一連の日経新聞の報道から受ける印象では、松下の経営は縮み志向が強すぎる感も否めません。これに関連した当サイトのエントリーでは、以下をご参照下さい。
一連の改革を推し進めてきた中村邦夫社長の手腕は高く評価しますが、松下は今新たなステージに移行しつつあります。新たなステージには、やはり新しい経営者が必要なのではないでしょうか?
私が上記のような考えを持つに至った背景には、私がフォード広島本社勤務時代に間近に見たマツダの社長の変遷の歴史があります。
苦境に陥っていたマツダがフォード傘下で経営再建を行うにあたって、フォードから派遣された社長はヘンリー・ウォレス氏でした。彼はマツダで社長を勤めた後、フォードヨーロッパのCFOとなったことからも分かる通り、財務の専門家です。瀕死の企業において最も重要なのはキャッシュフローの改善で、不採算事業の売却等をからめながら、本業を黒字化していくことが必要で、そのためには財務・会計の専門的知識・経験を持ったものがリーダーシップを発揮すべきなのです。
ヘンリー・ウォレス氏の後任としてマツダ社長に就任したのは、ジム・ミラー氏で、彼はマツダ社長になる前、フォード・ニュージーランドで社長を務めており、彼の専門はセールスでした。大ナタをふるって数字を改善した後は、成長を志向せねばなりません。そのためには売上高の回復が急務で、セールスの専門家がリーダーシップを取ることは十分理にかなっているといえます。
ジム・ミラー氏の後任として派遣されたのは、名前は忘れてしまいましたが、アメリカのMBA出の若手で、マーケティング・ブランドの専門家でした。ただ、売上を回復するだけならば、インセンティブを増やしたり、営業マンの猛烈なプッシュアプローチで売り込みを行えば売上高は増えますが、薄利多売に終わってしまう可能性も否定できません。EVAの考え方を導入すれば、資本コストを下回る利益率(ROIC)の下で成長を企図しても、それは逆に企業価値の破壊につながってしまいます。企業価値の増加を伴う成長を実現するには利益率(ROIC)の増加が不可欠で、そのためには周到なマーケティング・ブランド戦略が必要となります。財務リストラが完了し、売上高が上向いてきたら、マーケティングの専門家にバトンタッチするのは、株主価値の視点から極めて合理的といえるでしょう。
もちろん、一人で全てやってしまうようなスーパーマンのような経営者も存在し、日産のゴーン氏やIBMのガースナー氏がその好例でしょう。私は松下の中村氏の詳しい人となりについては、全く知らないのですが、少なくとも日経新聞の主要報道から判断する限りでは、適任の後継者にバトンタッチすべきではないかという気がします。しかし、だからといって、これまでの建て直しの功績を否定するつもりは毛頭なく、会社のステージに相応しい人材が舵取りをすべきであるということです。そして、こうした考えに基づいた社長交代を可能にするのが、社外取締役を多く配した取締役会です。松下がいつまでもキャッシュを溜め込んで成長のプランを描けないようであれば、それはガバナンスの視点が欠落していると言わざるを得ないでしょう。