本日の日経新聞の企業総合面に、大きくスペースを割いた、日産の労使交渉のトピックがありました。NIKKEI NETより以下に報道の要旨を引用いたします。
(引用始)
『日産自動車労働組合(郡司典好委員長、組合員数3万人)は25日、今春の労使交渉で、月次給与の総原資引き上げを軸にした新しい賃上げ要求案を決定した。日産は昨年4月から個人の業務成果に応じて月次給を決める新制度を導入、ベースアップ(ベア)の考え方がなくなった。日産労組はベアに代わる基準を設け、好業績に見合った賃上げの獲得を目指す。』
(引用終)
人事の専門家でない方には、上記の記述は意味は分からないとはいわないまでも、ぴんとこないのではないでしょうか?そのような方のために、定期昇給とベースアップの概念を簡単にご説明しておきたいと思います。
【定期昇給・ベースアップ・職能資格制度】
定期昇給もベースアップも、どちらも従業員の給料が上がることというのは正しい認識ですが、両者のもとにあるのが賃金表なるものです。賃金表とは、等級ごとの給与水準を定めた表のことで、例えば、「事務職2級の人は基本給20万円、営業職3級の人は基本給30万円」といった具合に等級と給与水準がマッピングされている表です。
そして、ベースアップとはこの賃金表の書き換えのことを言います。ですから先ほどの例でいえば、「物価上昇に伴い、事務職2級の基本給は21万円、営業職3級の基本級は31万円とする。」といった具合に、賃金表そのものを書き換えてしまうことを言います。これに対して定期昇給とは賃金表上の移動のことで、「事務職3級が昇格して事務職2級になって基本給が増える」といった具合です。
そもそも、こうした賃金表をベースに個別の賃金を決定するためには、等級がしっかりと定義されている必要がありますが、こうした等級をベースに人事制度を運用する手法を、職能資格制度と呼びます。ですから、職能資格制度を敷いている企業における労使交渉においては、その根幹である賃金表に照準が定められ、ベースアップが労使交渉の最大のテーマとなっていたわけです。
【成果主義時代の労使交渉】
さて、先ほどの職能資格制度ですが、厳密にいえば年とともに給与が増える年功制とは異なるのですが、結果的に年功制と同様な運用を行っている企業が多く、適正な個別賃金の配分がなされていないという問題が多くの企業で表れました。そこで登場したのが、成果主義という考え方で、各従業員の生み出した成果に基づいて給与を決定しようというのがその考え方の基本です。したがって、当然の帰結として、先ほどの「賃金表」は成果主義のもとでは意味をなさなくなり、賃金表の書き換えを目指すベースアップを労使交渉の主テーマとしても意味をなしません。
そこで、成果主義を導入している日産の労使交渉においては、ベースアップという考え方がなくなり、「賃金の総原資」が交渉の争点となった、というのが今回の報道の背景です。
成果主義の普及が、いわゆる個人レベルにおける「勝ち組」と「負け組」の二極分化を後押ししていますが、こういう時代にこそ労働組合の存在意義は大きいと思われます。本日は従業員よりのコメントとなりますが、今回の報道を機に、「なんとなくイメージが悪い」と思って敬遠していた労働組合について、考え方を改めてみるのもよいのではないでしょうか?