今週は更新が滞りがちで申し訳ありません。また、通常は日経新聞を主ソースにしたレビューとなっておりますが、世間のライブドアに対する関心から高まったMSCBへの関心を受けて、本日は日経紙面とは関係なくMSCBについて、私の考えるところを述べて、この問題に一区切りつけようと思います。(本日のエントリーが難解に感じられたらすみません。翌週より、元のスタンスに戻る予定です。)
先日の私のエントリーにおいては、MSCBをさんざんにこきおりしたわけですが、MSCBにいち早く注目されてきた会計士の磯崎哲也氏の2月22日の「MSCBは必ず株価の下げ要因になるのか?」というエントリーに、非常に興味深い記述がありましたので、以下に引用いたします。
(引用始)
・MSCBは、引き受け手の行動次第で毒にも薬にもなる「諸刃の剣」であるが、必ずしも「下げ要因」とは限らない。「いい」MSCBの使い方というのもありうる。
・「いいか悪いか」の判断には、法定の開示事項だけでなく、発行会社と引受証券会社の間で、その他どのような合意(契約)が行われているかが極めて重要。
・しかしながら、この両者の合意の詳細が開示されることが少ないことが最大の問題点。(投資家は判断しようがない。)
(引用終)
昨日は、私は「個人投資家を食い物にするMSCBの発行を手伝う投資銀行には同義的責任がある」という、かなり偏った発言をしましたが、実は、MSCBが両刃の剣であるというポイントには大いに同感しています。磯崎氏はMSCBが良いMSCBであるためには、「発行会社と引受証券会社の間で、その他どのような合意」がなされたかどうかが重要であるとしていますが、もう少しベーシックな部分を考えると、良いMSCBであるための条件としては、以下の要素を付け加えるべきでしょう。
(1)発行体が純粋な負債で資金調達できないこと
既存株主の立場から考えれば、負債での資金調達が可能であるならば、純粋な負債での資金調達の方が望ましいことはいうまでもありません。なぜならば、純粋な負債であれば①希薄化の心配もなく、②利払いに伴う節税効果による企業価値の向上の恩恵に与ることも可能であるからです。(ただし、もちろん「ROA>負債利子」という財務レバレッジの働く条件が整っていることが前提となることはいうまでもありません。)したがって、日立のような会社がCBでの資金調達をアナウンスした場合、私は首をかしげざるを得ません。利払いや元本返済の負担が厳しいという条件のもとで、はじめて既存株主はMSCBの発行に同意せざるを得ないでしょう。
(2)調達した資金を使って企業価値を向上させ得る明確なビジネスプランが存在すること
MSCBでの資金調達の目的が返済期限の迫る負債の借り換えのための資金に過ぎない場合、それは間違いなく良いMSCBではありません。その場合、MSCBは末期状態の企業へのモルヒネにしかなりません。調達した資金を使用した明確な企業価値向上のためのプランが存在し、それを実行する経営陣の意気込みがないことには、株式の本質的な価値が上昇するはずはありえません。ビジネスプランはお金に命を吹き込む役割を果たすのです。二度に渡り巨額のMSCBを発行しながら株価が回復したいすずは、同社サイトにて明確な中期経営計画を投資家に対してコミュニケートしています。これがMSCBを良いMSCBたらしめた原因ではないかと私は考えます。
(3)引き受け証券会社のスタンス
上記(1)(2)の条件が整った上で、磯崎氏の言う「引き受け証券会社との合意」がはじめて、意味を持つと私は思います。いくら、「無茶な空売りはしません」と引受証券会社が言っていたとしても、そもそも(1)、(2)の条件が整わないことには、株式の本質的価値の向上はありえません。
つまり、(1)、(2)、(3)を合わせて考えて見ると、MSCBが既存株主にとって良いMSCBでありえるというのは、「発行体が現在財務的に苦境にあるが、明確な再生プランを持ち、引き受け証券会社が、その再生アドバイザー的な役割を務める」という極めてレアな条件が整うとき、はじめてMSCBは良いMSCBたりえるといえるのだと私は思います。このような条件が整うときに、上方修正条件のついたMSCBで資金調達を行えば、①通常の増資に比べ希薄化が緩和され、②増資に伴う需給の悪化を避けるというメリットを享受することが可能となるのです。
これらの条件、特に(3)が欠けるとどうなるかといえば、MSCBのホルダーによる空売りが始まるのです。MSCBには原株のコールオプションが内蔵されており、MSCBのホルダーがこのコールオプションのコストを回収するためには、上方であれ、下方であれ、株価が大きく動く必要があります。(つまりMSCBのホルダーは潜在的にロングストラングルのストラテジーを採っているといえるでしょう。)株価を上方に動かそうと原株を購入すれば、意に反して株価が下落したとき、大きな損失を被ることとなります。しかし、株価を下方に動かそうと空売りを仕掛けた場合は、結果としてプットオプションが合成されるので、意に反して株価が上昇しても、損失は限定されます。
大半のMSCBの案件は(1)~(3)の条件が整っていない発行体によるもので、そうした発行体のMSCBを引き受けた証券会社・ヘッジファンドが儲けを得るためには、現物株をショートせざるを得ないのです。こうした理由から、磯崎氏の言う「良いMSCB」の存在は認めつつも、私はモラルなきMSCBの引受証券会社の、既存株主である個人投資家に対する道義的責任を問うわけです。
ちなみに、ライブドアの場合、完全に欠けているのは(2)、すなわち明確なビジネスプランであるといえるでしょう。CFOの日記を見ると、企業価値の向上を念仏のように唱えていますが、明確な数値は一向に明らかにされません。こうした場合、リーマンがオプションコストを回収するためには、現物をショートせざるを得ないのは必然といえるでしょう。
Posted by Ken Kodama at 2005年02月24日 19:38