昨日、某資格試験予備校で財務会計の講義をしていたのですが、ファイナンシャルデリバティブの「オプション」の説明をするとき、興味を持っていただけるかと思い、ライブドアの転換社債とリーマンの株の空売りの話を簡単にしたのです。すると、講義後に受けた質問の内、二人の方の質問が、「空売りの仕組みがよくわからない」というものでした。私も最初に空売りに接したときに感じた、同様の居心地の悪さのようなものを、思い出した次第です。「空売り」というのは、なんとなく概念でわかっても、証券会社での勤務経験がないと、裏の仕組みがしっくりと分からないと思われるので、本日は「空売りの仕組み」をすっきり納得していただくためのエントリーを書こうと思います。
【①株・債券の貸し手が必要】
当たり前のことですが、自分が持っている株を売ることと、空売りは全くことなります。空売りは、「売り」から入って後で買い戻す投資手法です。しかし、「売り」から入る場合でも、買ってくれる相手側は、その売り手が「空売り」なのか、手持ち株の売却なのかは関係ありませんから、当然、株なら株券、債券ならその券面の引渡しを要求します。空売りの場合は、その手持ちの券面がないため、空売りを可能にするためには、まず、券面を貸してくれる貸し手が必要になります。
【②空売りをお手伝いするお人よしの貸し手ってどういう人???】
ここで気になるのが、券面を貸してくれる人の動機です。株を貸すことのできる人というのは、現在株を保有している人でもあります。株を貸せば、空売りに使われ、その売り圧力が強ければ、株価は値下がりしてしまいます。株を貸すメリットなどあるのでしょうか?
株を貸すメリットは、貸す代償として「品貸料」を得られる点です。長期保有を前提として株を所有している投資家であれば、自分の株は長期的には上昇すると信じており、デイトレーダーのような人が株を借りて売却しても、長期的には自分の思惑通りに株価は上昇すると信じています。そういう信念があれば、将来の株の値上がり益に加えて、品貸料を得られれば、嬉しくないはずがありません。
また、株の貸し手には、「裁定取引」なる手法のトレーダーも存在します。こういう人たちは、日経平均やTOPIXなどの先物と現物株の間に生じる「ゆがみ」から儲けを得ようとする人々で、そのトレーディングのために、かなり多くの現物株を有することがしばしばあります。こうした人々は、別に持っている株が将来上がろうが下がろうが、自分のもうけには関係ないわけですから、長期的な保有者に比べて、より積極的に株を貸し出すことが可能となります。
また、レアケースとして、株を貸すと空売りされるという基本を知らないために、ほいほいと株を貸し出してしまう方というのもまれに存在します。最近話題のあの方は、このケースではないと信じたいのですが・・・
【③空売りをした人の手元に残るものはなに?】
昨日、受けた質問の一つが、上記の質問です。この質問の本質は実は中々深遠です。細かく検討してみましょう。
まず、株券などの券面ですが、これは借りてからすぐ売るのですから、当然手元に残りません。しかし、株を売るのですから、その売却代金が手元に入ってきます。もちろん、この売却代金は「証拠金」として証券会社に預けておくことが求められますが、基本的には売った人の手元に残ると考えていいでしょう。
では、お金だけが残るのかといえばそうではなく、ショートポジションなるものが手元に残ると考える必要があります。株を買った場合、持っている株が上昇すれば益が出て、持っている株が下落すれば損が出ます。これは、すなわち、株保有によりロングポジションを形成しているからです。空売りした人は、たしかに手元には株券はありませんが、マイナスの券面、すなわちショートポジションが残ることを忘れてはなりません。では、そもそもその「ポジション」とは何なのかということですが、将来損益を生じさせうるリスクの大きさ、というとらえかたをしておけばよいと思います。
【④空売りをすると利息を払わねばならない?】
これは私が証券会社で債券のトレーディングの損益管理の仕事をしていたときに知って、そのときは少なからず驚いた記憶がありますが、空売りしているときに利払いがあると、空売りしている人は利息を払う必要があるのです。国債を借りてきて空売りしたとしましょう。すると、そのままでは、国から払われる利息は、新たなる国債の取得者のもとに払われるのみで、空売りのために国債を貸し出した人の手元には利息が入ってこなくなります。したがって、空売りをした人は、国債を貸してくれた人に利払いを行う必要が出てくるのです。こうした事象が発生するのも、空売りによりショートポジションが形成されるからであり、債券・株券を所有しているのと反対のことが起こると考えておけばよいでしょう。ですから、受取利息の経過利息を日々計上していたとすれば、ショートポジションをとっていれば、マイナスの経過利息を計上する必要が出てくるのです。