本日の日経新聞朝刊16ページには、『トップに聞く企業戦略』シリーズの一環で、日本マクドナルドホールディングスの原田CEOのインタビューが掲載されていました。
さて、経営論という文脈の中でのマクドナルドというと、真っ先に思い出すフレーズがあります。これは私の潜在記憶下に格納されており、私がいつどこで最初に目にしたのかが思い出せないのですが、英文での検索の結果、同米本社のかつてのCFO、Sonneborne氏が発した言葉のようです。私の記憶が正しければ、同氏がどこかのMBAスクールでの講師として招かれたときに、学生に対して「マクドナルドは、どの業種を営む企業か知っていますか?」と尋ね、多くの学生が「フードビジネス」と答える中で、彼が出した答えが以下の文章です。比較的簡単な英語なので、原文と、拙訳を記しておきます。
"We are not basically in the food business. We are in the real estate business."
(基本的には我々はフードビジネスに身をおいているのではありません。我々が営むのは不動産業なのです。)
"We are in the real estate business. The only reason we sell hamburgers is because they are the greatest producer of revenue from which our tenants can pay us rent."
(我々は不動産業者です。我々がハンバーガーを売っている理由は、ハンバーガーこそが、我々のテナントが我々にレントを支払うための原資となる、最大の収益源となるからなのです。)
このやりとりが私の潜在意識下に残存し得たのは、「なるほど、そういう見方もできるのか」という意外性ゆえのことですが、マクドナルドの不振を伝える報道を聞くたびに、こうしたビジネスの捉え方そのものが、業績不振の真因ではなかったのか、という気がしていました。このビジネスの捉え方も一つの慧眼といえるのでしょうが、それは顧客のベネフィットとは明らかに異なるものです。MBAの学生がマクドナルドがフードビジネス業者であると考えるのであれば、顧客もしかりで、食に対するこだわりがなかったことが、恐らく業績不振の真因だったのでしょう。
対照的な逸話として私が思い出すのが、モスバーガーが海老竜田バーガーの発売前に計上した1億円近くの「えび廃棄損」です。当時、もうあとは店頭に並ぶのを待つだけとなった海老竜田バーガーを社長に試食させたところ、「これでは『ぷりっぷり』ではなく、『ぷり』だ」との鶴の一声で、開発は一からやり直し、巨額の損失の計上となったのです。
本日の原田CEOのインタビューを読むと、この方の認識は「不動産業者としてのマクドナルド」ではなく「小売業者としてのマクドナルド」というカラーが鮮明です。かつて私が身をおいた、アパレルのギャップの問題意識とオーバーラップし、これがギャップのトップのインタビューとして掲載されていてもなんら不思議はありません。今回掲載の戦略の方向性を一言で述べるとすれば、「既存店重視で、客単価よりも客数を追求する」戦略体系であるといえるでしょう。価格体系の見直しや、時間帯ごとの売上高に着目するという視点は、全て上記につながっていき、原田氏は「CEO兼会長」という立場でありながら、これほどまで微細な戦術レベルが、整合性を持って頭に叩き込まれている点は、賞賛に値するといってよいでしょう。四期ぶりに連結黒字が達成されたのは、彼のようなトップマネジメントの存在が大きいのでしょう。
しかし、気になることは、依然として「小売業者」ではありながら、「食品を扱う」という意識が、少なくともインタビューからは全く伺えない点です。「ギャップジャパンのトップインタビューであってもおかしくない」、と私がいうのは、「食品」に関する言及がないからでもあります。米本社との契約等から、商品開発はある程度制約があるのかもしれませんが、基本に立ち返り、顧客の真のベネフィットに関する洞察を深め、「食に対するこだわり」がCEOの口から聞こえるようになったとき、日本マクドナルドは、さらに「化ける」ことでしょう。