先日も少し書きましたが、コンサルティングもFPも「人対人」のビジネスであるため、私のパーソナリティーをご理解いただくという趣旨のもと、不定期にビジネス外のコンテンツをこの場で提供させていただくことをご了承下さい。
【私とスティービー・ワンダーとの出会い】
本日のエントリーはStevie-Wonder.comにて、スティービー・ワンダーの新作が、実に10年ぶりに、4月下旬から5月上旬に発売されるとのニュースを受けてのものです。私と彼との出会いは、彼が来日してテレビ出演した1980年にさかのぼります。当時、テレビで盲目の彼が自在にシンセサイザーを操る姿に衝撃を受け、以来、私は彼の音楽とブラックミュージックに傾倒することとなります。私の英語力は平均的な日本人の方より上と自負していますが、その遠因は少しでも彼の音楽を理解したいとの動機にさかのぼることができます。当時の彼のアルバムを「貸レコード屋」で借りてきて、プレーヤーとラジカセを何で接続すればよいのか分からず、スピーカーにラジカセを密着させてダビングし、絶妙なタイミングで隣家の犬の鳴き声が入る、「Hotter Than July」を何度も聴いたあの頃が懐かしく思い出されます。またクレジットを見ると、彼がドラム・キーボード・ハーモニカとほとんど全ての楽器を担当していることに驚愕し、「多重録音」という概念を知らなかった私は、ときどき見かける大道芸人のごとく、キーボードに手を置きつつ、足でドラムを操作し、必要あらば顔面の前につるされたハーモニカを吹き鳴らす・・・などという光景を想像していたことも、懐かしい思い出です。
中二ではじめて彼のコンサートに行き、はじめて彼が私の眼前で歌った曲が、名盤中の名盤"Songs in the Key of Life"中の"Love's in Need of Love Today"という曲です。最初は彼の歌声だけがステージに響き渡り、マネージャーであるお兄さんに手を引かれながらステージに現れた彼を見たときには、感動の涙が頬をつたったものです。
【スティービー・ワンダーの一般的な評価と私の見解】
スティービー・ワンダーは、その天才としての才能を1970年代に開花させ、1980年代になんとか維持し、1990年代以降は「かつて天才だった人」との評価に成り下がってしまったというのは、音楽を聴く耳を持っている批評家・ファンの一致する見解で、私もこれは否定しません。しかし、晩年の作品が若干過小評価されている感があるので、少し反論しておきたいと思います。例えば、1987年に発売されたCharactersというアルバムは批評家達から酷評を受けましたが、それに対抗するコメントを出したのがプリンスです。「皆、彼がやろうとしていることを理解していない。気に入らないのら、聴かなければいいまでの話だ」といった趣旨のコメントを発し、そうした相思相愛が、今回のシングル曲の"So What The Fuss"へのプリンスのギターでの参加、という流れにつながっているのでしょう。
確かにCharacters以降の作品はセールス的にも大きな成功を収めていませんが、この時期の彼の作品で特筆すべきは、バラードの深みが増したということにつきるでしょう。例えばCharactersの第一曲目のYou Will Knowという曲は、ドラッグに慰めと快楽を見出そうとする子供達、孤独と経済苦にあえぐシングルマザーに対する「神からの言葉」という形式になっており、以下に一部引用します。
You will know
Troubled heart you’ll know
Problems have solutions
Trust and I will show
You will know
Troubled heart you’ll know
Every life has reason
For I made it so
「問題には必ず解決がある。私が見せてあげるから信じなさい。」「どんな人生にも意味がある。なぜなら私がそう(世界を)作ったのだから。」「God」はスティービーならずともアメリカンポップスにしばしば登場しますが、私は彼のこの詩には他には見られない深みを感じます。
また、同アルバム中の"With Each Beat of My Heart"は詩ではありませんが、楽器をシンプルに抑えて、心音や「ボーカル・パーカッション」を効果的に使用し、俗な言葉で言えば、究極のリラクセーション・癒し効果が得られる音作りと、メロディーが実に調和された名曲です。こうしたバラードの名曲が、評論家達の間で過小評価されているのは実に残念です。
【さて本題の今回の新作は】
さて、今回の新作ですが、シングルカットの"So What The Fuss"が試聴できます。私の感想ですが、冒頭での「ブリブリ」のシンセベースに、「あの時代」のファンクで育った方は、「にんまり」することでしょう。そして、彼は基本的に自分で演奏するため、ギターがメインにフィーチャーされることは少ないのですが、プリンスの参加でファンキーなカットフレーズに乗せた彼のボーカルを聞けるのは、珍しいといえるでしょう。似ている曲としては、Charactersの中の"Skeltons"や、ニクソン大統領を批判した"You Haven't Done Nothin'"が連想されます。
同サイトには、「ビルボードのR&Bチャートで急上昇」と書いてあり、ビルボード紙のサイトを見ても確認できず、よくよく見ると「アダルトR&Bチャート」なるチャートがあるらしいです。ラップ好きの若者は除くなんともニッチな、R&B好きオジサン・オバサンのためのチャートで、「昨年のアニタ・ベーカーの記録を更新した」とのことです(笑)。
と、比較的好意的なコメントを羅列しましたが、はっきり言って、あまり良い曲ではありません。こうしたノリノリ・ブラックの分野で、彼の天才ぶりが伺えることは、今後、もしかしたら、もうないのかもしれません。したがって、アルバム中に「名バラード」が収録されていることを、ただただ期待するだけです。
万一「名バラード」すら収録されていなかったとしても、それでも、私はスティービーの新作を何年もまた、待ち焦がれることでしょう。それが、長年のファンというものの心理なのですから。
【追記】
"So What The Fuss"と"You Haven't Done Nothin'"が似ていると言ったのは、(1)シンセベースを主体とした曲調と(2)政治への批判が含まれているからですが、後者について詩を比較すると、興味深いです。"You Haven't Done Nothin'"のタイトルの「You」はニクソン大統領であると言われ、「ニクソン、お前何もやってねえのに、偉そうな口きくな」と「政治家という第三者の批判」となっていますが、今回の"So What The Fuss"では「世界中で戦争が勃発し、未だに平和が実現できないのは、我々の責任だ」として"Shame on US"としています。一部の政治家に責任をなすりつけずに、これは我々みなが取り組まねばならない問題、としているところに、メッセージ曲としての深化も伺えるといえるでしょう。