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2005年04月21日

どうして「純粋持株会社移行」で「時価総額」が向上するのか???

「イトーヨーカ堂は20日、子会社のセブン―イレブン・ジャパン、デニーズジャパンと3社で持ち株会社を設立すると発表した(NIKKEI NETより引用)」との報道です。本日の日経新聞11ページによれば、「商品仕入れ、情報システム、金融事業で相乗効果を高める(引用)」との記述があり、実質的なシナジーについても多少は言及していますが、メインの「純粋持株会社への移行」は、形式的な話であり、これは決して、実質的な企業価値向上のための戦略ではないことは明確です。しかし、日経紙面の小見出しは「時価総額向上狙う(引用)」としており、新聞の記述だけでは「純粋持株会社」がなぜ「時価総額向上」に結びつくのか分かりにくいと思いますので、この点について考えてみたいと思います。

【企業価値=事業価値+非事業用資産の価値】
私がこの算式を当ブログで記述するのは何度目になるか分からないくらい引用していますが、しかし、この算式で考えると、見えてくるものが多いのです。株主価値の源泉となる企業価値ですが、事業価値と、主として営むビジネスに関係ない非事業用資産の価値の2つに分解することができます。具体的にこれらを数値化する手法としては、事業価値については将来のキャッシュフローを予測して現在価値に割り引くDCF法が用いられ、非事業用資産の価値については、それが株式であるならば時価を使用することが多いです。
さて、今回の話題のイトーヨーカ堂を分かりやすさのために単純に「①本業の総合スーパー」と「②『セブンイレブン』という本業には関係ないコンビニ事業の親会社」という2つの側面に分けるとすれば、前者についてはDCF法で、後者についてはセブンイレブンの東証での時価を求めて、足し合わせればセブンイレブンの理論的な企業価値を求めることが可能です。
しかし、実際のイトーヨーカ堂の株価は、理論値をはるかに下回る水準で推移しているのは、皆様の知るところです。なぜ、そうなるかといえば、本業の総合スーパーの事業が不振でそのイメージに引きずられてしまっているためなのです。言ってみれば「市場の錯覚」であり、もしかしたら行動ファイナンスでこの事象を説明する論文が既に書かれているかもしれません。

【純粋持株会社の価値は「足し算」】
さて、イトーヨーカ堂、セブン・イレブン・ジャパン、デニーズジャパンを、純粋持株会社の100%子会社にした場合、純粋持株会社の理論的な価値はいくらになりますか、と問われれば、それは3社の価値の足し算に他ならないことは、あまりにも明白だと思います。さきほどの「事業価値+非事業用資産の価値」という数式より、「純粋持株会社の価値 =A社の価値+B社の価値+C社の価値」という算式の方が、我々の感覚に明確に訴えるのであり、それは一般投資家全般でも同じであり、この分かりやすい構造にすることにより、錯覚によって埋没してしまっている価値を時価総額に顕在化させよう、というのが、今回の組織再編の狙いなのです。

【純粋持株会社移行は手放しで賞賛すべきことか?】
私は、こうした分かりやすい組織構造・資本構造に企業が移行していくことは、投資家保護という観点から大賛成ですが、一点注意せねばならないのは、子会社の株主の利益が侵害されてしまう、というポイントです。セブンイレブンの株主はコンビニ事業の成長性に着目したからこそ株主になったのに、本日の新聞報道を見て、自分の株式がイトーヨーカ堂の株式との抱き合わせ商品に転換してしまったことを知って、愕然とするかもしれません。セブンイレブン株が持株会社の株式に転換されることにより、確かに今までになかった、ポートフォリオ理論でいうリスク分散のメリットは享受できるようになりますが、全体としての収益性が低下してしまう事実は否定できません。
では、どこが間違っていたのかといえば、子会社上場の意思決定にさかのぼることができます。子会社の株主の利益を真に考えていたならば、一度子会社株式を上場したのならば、将来的には完全にスピンオフする覚悟がないのであれば、子会社は上場すべきではありません。日経新聞によれば、デニーズとセブンイレブン株いは13%のプレミアムがついているとのことですが、「13%上乗せしますからイトーヨーカ堂との抱き合わせ株に代えて下さい」というのは、あまりにも投資家軽視の政策といえます。今後は子会社株式の上場の意思決定は、慎重に行うべきでしょう。
なお、「欧州系証券(私の古巣ではないといいですが・・・)」によるコメントとして、「セブンイレブンを中核に他の二社をぶらさげた方が成長イメージを損なわない(引用)」とのコメントが日経新聞にありますが、「成長性のある企業を中核にする」というポリシーでは、業態転換の激しい小売業界にあっては、組織構造がいつまでたっても安定せず、5年、10年毎に「下克上」が起こってしまう可能性があり、私はこうした場当たり的な組織構造は好みません。

Posted by Ken Kodama at 2005年04月21日 10:39
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