久々に会計ネタです。「包括利益」なるものが本日の主役ですが、まず、NIKKEI NETの報道を引用してみましょう。
(引用始)
『国際会計基準理事会(IASB、本部ロンドン)が企業の決算報告で「純利益」を廃止し、その代わりに「包括利益」を採用する検討を進めていることに対して、経済産業省や産業界が反発している。IASBは年内に結論を出す方針。経産省は純利益が企業の成長性を反映するうえで優れているとして、純利益の存続を主張する報告書をまとめた。』
(引用終)
「純利益」については、当ブログをお読みの方には改めて説明するまでもなく、P/L(損益計算書)の一番最後に来る数字のことです。対して、「包括利益」という言葉自体に馴染みがある方はあまりいないのではないでしょうか?「包括利益」と「純利益」というキーワードで検索してみると、えらく難しい論文しかひっかからないので、本日はこの「包括利益」を料理することといたしましょう。
【損益計算書は資本の増減の明細書】
利益が増えれば、自己資本も増えます。赤字であれば、その分自己資本は減ってしまいます。ですから損益計算書というものは、基本的には資本の部の増減の明細書であると考えて差し支えありません。
では、上場企業の2期間のB/Sの「資本の部」の差額が、P/Lのおしまいの「純利益」の額に一致するかといえば、世の中それほど甘くありません。一致しない原因は二つあります。
第一の原因は出資者である株主とのお金のやりとりです。株主から資本を払い込んで増資をしてもらったり、株主に配当金を支払う・・・こういった類の株主とのお金のやりとりについては、損益計算書にのせません。この点については、国際会計基準であれ、日本やアメリカの会計基準でも一枚岩で、将来的にも意見が割れることは考えにくいです。
第二の原因が包括利益と純利益の差異の原因でもあるのですが、まず具体例もみてみましょう。持ち合い株式を考えてみて下さい。株式持合いというのは、相手企業を支配する意図があるわけでもない一方で、すぐに売却して利ざやを稼ごうという意図があるわけでもない、会計的になんとも扱いにくいシロモノです。
株式持合い目的で1億円で株式を取得し、その株式が株価の下落により期末に5千万円となっていたとします。そうした場合、イメージ的には以下の仕訳をきることになります。
(借)自己資本 5千万円 (貸)持合株式 5千万円
もしこの株式が売買目的の株式であった場合は、仕訳のイメージは以下のようになります。
(借)株式評価損 5千万円 (貸)売買目的株式 5千万円
2つの仕訳を比較して気がつくのは、借方の科目の違いです。売買目的の株式であれば、「株式評価損」というP/Lの勘定を通して評価減を行うのに対して、持合株式の場合はP/Lを通さず直接資本を減少させているのです。このように株主とお金のやりとりをしているわけでもないのに、P/Lにのることなく自己資本を増減させる取引が存在し、それを含めるか否かで「包括利益」と「純利益」という異なる二つの利益の概念が生まれるのです。言うまでもなく、含める方が「包括利益」で含めない方が「純利益」です。
今は持合株式だけを例にとりましたが、本日の日経新聞には(一部の)デリバティブの評価損益等の取引も、「包括利益」と「純利益」の差異を産む取引として記載されています。では、これらはなぜP/Lに載せないのか、ということになるとだんだん難しくなってくるのですが、誤解を恐れず一言でいえば当期生み出された収益に関連がないからです。
【このバトルはP/Lの見せ方の問題】
産業界が反対だの、日本が反対だのと色々書かれていますが、日本の会計基準でも資本の部の数字には反映されているわけですから、基本的にはバトルがどういうところに落ち着こうともB/Sの数字が変わってしまうことはありません。その原因をP/Lに載せるのか否か、載せるのであればどういう載せ方をするのか、という点が論争のポイントです。
国際会計基準は、P/Lには包括利益のみを表示し、純利益を表示させない方向で動いているようです。先ほど見たように、基本的には「純利益 + 株式持合いの評価損益等 = 包括利益」なのですから、「純利益」を表示しないというのはいささか行き過ぎの感がします。こうした国際会計基準の動きの背景にあるのは、「そもそも利益とは何であるか」という、もはや哲学の領域です。会計界で神学論争していただくのは「どうぞご勝手に」ですが、財務諸表を活用するのは個人投資家というlaymenもいるのだということを忘れないでいただきたいものです。