執筆者のプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif

2005年07月05日

行動ファイナンスから見たウォルマートの西友子会社化

ウォルマートが西友への出資比率を引き上げるとの報道です。以下にNIKKEI NETの記事を引用しておきましょう。

(引用始)
『世界最大の小売業、米ウォルマート・ストアーズは年内にも西友を子会社化する方針を固めた。追加増資によって、現在42.4%の出資比率を50%超に引き上げる。あわせて、2009年までの5年間に約500億円を投じ、200店を改装する。西友の業績不振で提携関係を縮小するとの観測も出ていたが、日本市場で反転攻勢を狙う姿勢が明確になった。』
(引用終)

さて、私は西友について、今年の2月に以下のようなエントリーを執筆しています。

なぜEDLPは日本で根付かないのか?

EDLPとは「エブリデー・ロー・プライス」のことで、特売品で集客するのではなく、いつでも安値を提供して集客するウォルマートのマーケティングの根幹をなす手法です。しかし、私の分析があたっているかいないかは別として、日本では上手くいっていないという厳然たる事実は存在しているわけです。にも関わらず、西友への投資額を増やすわけです。しかも、その追加投資はグループ全体の405店舗中の半数に相当する200店舗の改装に使うというのですから、尋常ではありません。
このように「経営者が失敗しているプロジェクトにお金をつぎ込む」ことは伝統的なファイナンス理論では考えられないことですが、伝統的なファイナンスの枠外の事象を説明するのが行動ファイナンスで、この場合は損失回避という概念により、ウォルマートの行動を説明できます。
損失回避の理解を深めるために、『行動ファイナンスと投資の心理学(東洋経済)』及び『人生と投資のパズル(文春新書)』から引用を交えつつ簡単にご説明しておきましょう。みなさんは以下の2つの選択肢を選べる場合、どちらを選びますか?

(1)7,500ドルの確実な損失を受け入れる。
(2)75%の確率で1万ドルを失うか、25%の確率で何も失わないかという賭けをする。

伝統的なファイナンスの立場からは、両方の選択肢はリターンという観点から考えれば等価です。なぜならば(2)の「期待値」は「1万×75% + 0×25%」よりやはり7,500ドルで(1)と等価だからです。しかし、リスクという観点から考えれば、リスクとはリターンのブレ幅のことなのですから、損失が確定している(1)の方が(2)に比べはるかにリスクは小さいのです。
さて、みなさんは恐らく(2)の選択肢を選んだことでしょう。しかし、みなさんは自分はリスク愛好的な人間ではなく、リスク回避的な人間であると信じていることと思います。リスク回避的なあなたは、なぜリスクの高い(2)を選んでしまったのでしょうか?これを説明するのが行動ファイナンスであり、伝統的なファイナンスでは人間はリスク回避的であることを前提にしていますが、行動ファイナンスでは人間は損失回避的であり、損失を回避できると思えばリスク愛好的にもなってしまうと説明しています。株の難平買い等を行う心理もこれにより説明することが可能です。
今回の場合、EDLPはウォルマートの根幹をなす思想であり、それでアメリカでは大きな成功体験を収めているわけです。「アメリカで成功を収めている手法が、日本の失敗原因であるはずがない。日本の失敗原因は・・・そうだ店舗が老朽化しているからだ!店舗に投資して魅力的にすればお客さんは西友に足を向けてくれる。そうすれば後はEDLPの虜になってしまうだけ。マチガイナイ!」まあ、滑稽に書きましたが、意思決定の現場はこんなもんだと思います。また、日本人の西友経営陣は絶対に心の中では「EDLPだけではアカン!」と思っているはずで、それをアメリカ人経営陣に伝えていなかったとしたら、コミュニケーションの深刻な問題を抱えているともいえます。
日本の総合スーパーは、それぞれに自ら袋小路に入っていくように思えます。どこが一番最初に抜け出るのでしょうか?

Posted by Ken Kodama at 2005年07月05日 21:39
Comments
Post a comment









Remember personal info?