株式会社とは、利益を出して株主に報いるための手段である。それなのに、利益を出すと宣言すると、どよめきが出るという、世にも稀な企業も存在するのだ。
(引用始)
『「これまで学んだことを大いに参考にし、利益を着実に出すことを重視する。」十日、都内で開催された投資家向け説明会で孫正義社長の発言に、会場がどよめいた。』
(引用終)
上記は本日の日経金融新聞からの引用であるが、日経新聞15ページにもソフトバンクの決算に関する記事があるので、お手元にある方は是非ご覧いただきたい。記事のメインはソフトバンクの4~6月期の決算が111億円の最終赤字になるという点に関わるものだが、冒頭の孫氏の発言にあるように、通期では黒字が確保できる見込みとなった模様である。
誠に分かりにくい話ではあるが、「利益を着実に出す」というのはソフトバンクにとっては、一種の敗北宣言でもある。というのも、この黒字は孫氏の積極作戦がようやく身を結んだ結果なのではなく、固定通信ビジネスの積極路線を軌道修正することによって得られる黒字に過ぎないからである。この黒字は、固定通信の代理店の管理をインボイス(これまた危険な香りのする会社だが)と日本テレコムの共同出資会社に移して事業リスクを外出しにし、新規顧客獲得コストを削減することによって実現されるのだ。
ソフトバンクは今まで赤字続きであっても、巨額の時価総額を誇っていたのは、将来のキャッシュフローの現在価値の総和が、巨額の時価総額を正当化し得るほどにあると考えられてきたからである。固定通信の積極路線を修正すれば、理論的に考えれば、将来得られるキャッシュフローはそれだけ減少するはずであり、株価は低下するはずである。しかしながら、この発表を受けてソフトバンクの株価は急騰した。この株価の動きを理論的に説明しようとすれば以下のようになる。
(1)確かに、固定通信ビジネスの軌道修正により、将来のキャッシュフローの予測額は減少した。
(2)しかし、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くための割引率についてはどうであろうか?この路線修正により、ソフトバンクの財務リスクに関しては低下したということができる。割引率というのはリスクが高いほど大きく、リスクが低いほど小さいのだから、ソフトバンクの将来キャッシュフローの割引率は小さくなった。
(3)企業価値を算出する公式は単純化して書くと以下のようになる。
企業価値 = 将来CF ÷ 割引率
ここで(1)より分子は低下したが、(2)より分母も低下したのである。ソフトバンク株が急騰しているというのは、分子の低下よりも分母の低下のインパクトの方が大きいと市場が考えているからに他ならないからである、というのがソフトバンク株の値動きの理論的な説明になる。
ソフトバンク株への投資を考えている方にコメントすると、まず、この通年黒字化というのもプラン上のものに過ぎないということ。世の中の企業みなが増収増益に四苦八苦している中にあって、ソフトバンクだけは、路線修正しただけで安易に黒字を達成できると考えるのは危険であるといえる。
また、ソフトバンク株の評価というのは実に難しい。今まで赤字であったのだから、使い慣れたPERという物差しが通用しないし、また先述の将来キャッシュフローのみならず、保有する子会社群の株式の資産価値というものも考慮せねばならない。一筋縄で評価できない企業であり、バリュエーションが困難なので、初心者の方の長期投資の対象としてはあまりお勧めしない。
やすゆきさん
コメントいただきありがとうございます。「信者」というのは鋭い表現だと思います。グロース株の場合、頼れるのは将来の成長のビジネスプランだけなのですから、投資家が投資の意思決定を行うようには、「入信」への「信仰心」が重要なファクターになるのだと私も思います。
この一つだけでは信者は離れていかないと思いますが、もういくつか、似たような現実路線が打ち出されると、信者の離反が起きるかもしれませんね。
お久しぶりです。
ソフトバンク株もライブドア株と同じく、「信者」だけが買える株なんだと思います(笑)熱狂にノレる人は買ってますが、普通の人は怖くて手が出ませんよね。一時のライブドアは仕手株化してましたし。
イケイケ路線を市場の熱狂が支えていたと思うのですが、それを止める訳です。どよめきが起こるのも無理ないと思いますが(笑)、「信者」が離れていかないでしょうか?