本題に入る前ですが、以下の私のもう一つのブログで、郵便局の投信販売について検討を続けています。10月8日付けの日経新聞で掲載された『財産三分法ファンド』のメリットと限界についても考察していますので、興味のある方は是非ご覧になってみて下さい。
さて、本題の村上ファンドですが、正直なところかなり漫然と新聞を読み流していたため、村上氏がなぜ阪神タイガースを上場するというのか、全く理解できていませんでした。というのも、子会社上場というのは、村上氏が一貫して批判してきたことであり、子会社上場の生み出すネジレ現象がホリエモン騒動や西武問題の根幹にあったことはいまさら指摘するまでもないからです。私はこのブログで村上ファンドの動きについては、経済的に理にかなっているため、例えば下記のエントリーなどにおいて支持してきました。
この村上氏が、子会社上場を阪神側に提案するなどという事態になってしまったのは、彼の内面にどのような変質が生じたのだろうかといった興味で新聞を流し読みしていたのですが、本日の日経新聞の社説の以下の一文が手がかりとなって、ようやく彼の意図が分かった気がしてきました。
(引用始)
『ファンド代表の村上世彰氏は日本的な親子上場を批判しており、子会社株を親会社の株主に割り当てる米国型の子会社上場を考えているといわれる。』
(引用終)
ここで「米国型の子会社上場」について若干説明しておくと、これはいわゆるスピンオフのことです。今回のケースが実現するとどうなるのかといえば、今阪神電鉄の株を持っている人は、ある時点で現行の阪神電鉄株が没収されるかわりに、新阪神電鉄株と阪神タイガース株の二種類の株を手にすることとなります。株式の交換があった時点では下記の等式が成立しているはずです。
旧阪神電鉄株 = 新阪神電鉄株 + 阪神タイガース株
しかし、阪神タイガース株を上場することにより、村上氏の目論見通りに阪神タイガースの「価値が顕在化」すれば、保有株式の時価が増えることとなります。このようなタイプの「子会社上場」であるならば、親会社は子会社株を保有していないため、一連の騒動のもととなった「資本のネジレ現象」が生じることはありません。
アメリカのスピンオフといえば、たとえば先日経営破綻してしまったアメリカの自動車部品最大手のデルファイは、もとをたどればGMからスピンオフして誕生した企業です。同じくビステオンもフォードからスピンオフして誕生した企業です。(もしデルファイが日本的な子会社上場により株式公開されていたのであれば、GMは今以上に深刻な事態に陥っていたことが想定されます。)スピンオフにより、両社の間の資本関係はなくなりますが、かといって喧嘩別れをするわけでもなく、デルファイにとっての最大の顧客はGMであり、ビステオンにとってはフォードであったわけで、両社の協働関係が消失してしまう訳ではありません。
スピンオフは、株主にとっては選択肢を増やすという点でメリットがあると思います。株主にとっては、一つの株式が二つに分解されるだけなので、二つとも保有し続けてもよし、要らない方だけ売却してもよし、と選択肢が増えるからです。GMのケースについても、もしスピンオフが実現していなければ、GM株全体が紙くずとなっていたかもしれませんが、スピンオフのおかげでデルファイ株だけが紙くずになっただけで済みました(少なくとも今の時点では)。
スピンオフのデメリットはといえば、これをデメリットと言ってよいのかどうか疑問は残りますが、元の親会社の経営陣が子会社の経営に関与できなくなることです。元の親会社の経営陣が優秀であればあるほど、これは痛手となりますが、そうでないのであれば、むしろ分離されたビジネスに特化した経営者を迎え入れることができるわけですから、歓迎すべきことともいえます。
阪神電鉄株の詳細な分析を行ったわけではないのではっきりとしたことは分かりませんが、もしバリュエーションの結果、阪神電鉄株が割安である場合、スピンオフというのは早期に価値を顕在化させるための一つ有効策であるといえます。村上氏の戦略は一貫して、①バリュー株を大量に保有し、②経営陣にモノを言うことにより、③短期的に価値を顕在化させるというものです。今回の騒動も、そのスタンスとなんら異なることはなく、したがって私は今回も村上氏の動きは、実に「理」にかなっていると思います。まあ、阪神ファンという特殊な人種(なんていうと怒られてしまうかな?)の感情を逆なでしてしまったことは否定できないですけどね(笑)。