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2005年11月18日

実はハイテクだった「カナチュウ」

「カナチュウ」と聞いてそれがバス会社であることを即座に認識できるあなたは、間違いなく神奈川県民である。正しくは「神奈川中央交通」。もちろん、「ピカチュウ」なんぞが登場する何十年も前から、この愛称で親しまれてきた。私は、ここ十年近く「カナチュウ」に乗ったことがないので最近の事情にはうといが、昔のカナチュウバスは、例えば210円の料金を払うのに10円玉がないときはどうするかといえば、100円玉1枚を「両替機」に投入して10枚の10円玉を受け取った後、その内の1枚と100円玉2枚を合わせて料金箱に入れるという、実にカスタマー・アンフレンドリーなシステムを採用していたのである。間違えて料金箱に3枚の100円玉を入れた私は、運転手から説教をくらい、自分の後ろにはいらだつ常連客の長蛇の列ができるというトラウマ(心的外傷)が形成されてしまったため、カナチュウにはもう関わりたくないというのが本音である。
そんなカナチュウが本日の日経金融新聞の『決算ピックアップ』のコーナーで小さく取り上げられていた。2005年9月期の純利益が最高益を更新したとのことであるが、その理由は以下のように記述されていた。

(引用始)
『ただ最高益は景気回復だけの果実ではない。陸運各社が燃料費高騰にあえぐなかで、昨年石油デリバティブを導入。燃料費は三割程度負担が軽減した。「燃料費が高騰する前に導入してよかった」と笑顔で語っていた。』
(引用終)

「カナチュウ」に石油デリバティブ。なんともいえない違和感を覚えてカナチュウの個別財務諸表の開示資料を覗きに行くと、そこには「オイルアベレージスワップ」なる耳慣れない言葉が記載されている。「オイルアベレージスワップ」でググってみても、4件しかヒットせず、しかも皆カナチュウの財務情報であるので、金融機関の商品名をそのまま記載したと思われるが、恐らくプレーンなコモディティスワップのことと推測される。
原油を対象とするプレーンなコモディティスワップだとすれば、仕組はそう難しいものではない。カナチュウは金融機関との間で「カナチュウがあらかじめとりきめた原油の固定価格を金融機関に支払い、逆に金融機関が原油の変動価格をカナチュウに支払う」との取り決めを結ぶ。この契約とは別に、カナチュウはバスの燃料代としてガソリンを購入せねばならず、その価格は市況に応じて変動している。したがって、金融機関からの原油の変動価格の受取と、ガソリン代の支払いとしての変動価格の支払いが打ち消され、残るのは原油の固定価格の支払いのみである。したがって、ライバルが燃料費高騰にあえぐ中で、カナチュウは燃料代を固定化できていたため、カナチュウの福山常務が笑顔で語るわけなのである。なお、この仕組をわかりやすく図示したものがUFJ銀行のサイトにあるため、興味のある方は参照されたい。
カナチュウのこのスワップ契約がいつまで続くのは開示情報からは不明だが、このようなヘッジ取引を行う企業はあまりなく、カナチュウの決断は優れていたといえる。なぜ、ヘッジ取引が浸透しないかといえば、予想と逆にふれたとき(原油安になったとき)、ヘッジしていない企業が得をし、金融機関に手数料を払ってまでヘッジをしたことが無意味となってしまうからである。加えて、ヘッジ取引の手段として使用されるオプションやスワップという商品のリスク管理が難しいという問題もある。
大手の自動車各社にしても、決算の最大の変動要因が為替であることからしても、せいぜい売上から回収までの短期間のヘッジ目的での為替先物くらいしかメインに活用されていないのであろう。規模が比較的小さな企業は、今回のカナチュウのような比較的単純なデリバティブの導入が功を奏すことが多い。また、取引が複雑化した大企業においては、包括的なリスクマネジメントという観点から哲学的に考え抜けば、新たなヘッジの枠組みが生まれるのではないかという気がする。

Posted by Ken Kodama at 2005年11月18日 09:52
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