執筆者のプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif

2005年11月26日

iPod考、そしてMac考

iPod。それは小型のハードディスクドライブによる携帯音楽端末である。確かにそれだけのことだが、容量が30GB、60GBと、数年前には考えられない桁違いの領域に達したとき、我々の音楽との接し方は革命的に変わる。それはリスナーの音楽との接し方のみならず、マニュファクチャラー(アーティスト)と流通業者のあり方も、根こそぎかえていく。入院という私的なイベントを機にiPodを購入した私は、世間から1年近く遅れをとりながら、ようやく世の中で進行しつつあった、音楽業界の静かなる革命に気付くことになる。思いついたことをここにまとめておきたい。

①どこでもムード・チェンジャー、ムード・エンハンサーとしてのiPod
ある私の一日。朝の電車の中はもちろんAl JarreauのMornin'を聞きながら軽快に出勤。ベートーベンのバイオリンソナタ6番を小さな音量で流しながら、執筆作業。演奏はもちろんArgerich & Kremerで。息抜きはナツカシのヒット曲で。今日はRogerのI Wanna Be Your Manにしようかな。帰宅時の電車の中では、早まる日暮れに想いを馳せながらSadeのNo Ordinary Love。夜はモルト・ウイスキーをあおりながらWynton MarsalisのLive At Blues Alleyを味わう。
こんなことはCDウォークマン時代には絶対に不可能であったこと。朝聞こうと思ってカバンにしのばせたCDが、もう午後には気分にそぐわなくなっているときすらあった。CDを80枚近く収録した今、まだ20GB以上の空き容量が残っているという。容量が桁外れに増加することにより、私と音楽との付き合いは、ハネムーン時代に戻ったのだ。

②アイデンティティ誇示装置としてのiPod
若かりし頃、初めて招かれた友達の家で、私がまずチェックしたのは本棚とCDラックであった。この人はどんな趣味の人なのかと。今、相手の家に出向かなくともiPodの選曲を見せてもらうだけで、その人の価値観の片鱗に触れることができる。学生達はもうキャンパスでこんな交流を始めているのかもしれない。「ねえ、iPod見せて~」携帯電話のデザインや着メロでの浅薄なアイデンティティの誇示に比べ、iPodでの自己表現ははるかに控え目かつインテリジェントである。
うろ覚えだが、某週刊誌でiPodに落語を収録しているという方のエッセーで、その方が学生である息子から、「そういう使い方はiPodの冒涜だ」と言われたそうだ。もちろん、「絶対、枝雀は入れない」みたいな自己表現も大いにアリだと思うが、若者がiPodに「冒涜」という表現を使うところが実に興味深い。こうした、Sacredな商品を生み出すのがアップルなのだ。

③老獪な著作権対策
大学での講義にiPodを活用するというニュース。「色々な使い方もあるもんだな」と微笑ましく記事を読み流していた私は、まだ青二才にすぎないことを悟ることとなる。
その記事を読んでほどなくしてから知ったニュースはiPod課金に関わるもの。著作権の補償としての課金をiPodの端末価格に上乗せする結論が先送りされたのだが、課金反対論者のよりどころは「iPodは音楽だけの用途に使われているのではない」との指摘。こうした布石を打っておくあたり、アップルはどん底を経験してから、したたかさを身につけたといえる。

④流通業界へのインパクト
アップルが販売曲数でタワーレコードを抜いてしまったとの報道。私が高校生の頃は輸入CDを日本で買えるメジャーどころは、石川町と渋谷のタワレコと渋谷のシスコくらい。そんな伝統あるタワレコがダウンロード販売に抜かれてしまうとは、時代の移り変わりは感じずにはいられない。
ただ、レコードやCDの時代には、音楽を「モノ」として買うことにワクワク感がついてきたものでもあった。ジャケットのデザイン、歌詞カード、ミュージシャンのクレジット、そして邦盤にはライナーノーツ。ダウンロード販売になったとはいえ、そうした音楽を高める付属物へのニーズが消失するとは考えがたく、新たな形態の付属物が生み出され、小規模ながらもマーケットを形成していくのかもしれない。

⑤マニュファクチャラーへの影響
以前のエントリーでも指摘したことだが、音楽流通においてダウンロードが支配的になると、「ばら売り」が加速化し、アーティストが「アルバム」を発表していくインセンティブが徐々に薄れていくのではないかという気がする。CD売上が減少しつつある中で、「ライブ」という形がアーティストにとっての収益補填の形態として、見直しがされるかもしれない。
また、こうした動きがはじまる前に、既にポピュラーミュージック最先端のアメリカには、ラップの隆盛に伴う砂漠化が押し寄せている。クラシックといえば、いまだに何百年前のベートーベンやモーツァルトが聞き継がれているように、ポピュラーミュージックもコンパイレーション、リミックス、カバー、サンプリングといった形で、80'sを中心とした「ポピュラー・クラシック」が聞き継がれる時代に移行しつつあるのかもしれない。まあ、これはオヤジの希望的観測でもありますけどね(笑)

⑥そして、アップル考
アップルが革命を起こすのは2度目のことである。最初はパソコンをあれだけの勢いで普及させたという点において。そして、今回は音楽と我々のあり方において。改めて考えてもこれはスゴイことである。一時期、危機すら騒がれたアップルだが、iMacで危機を脱し、iPodで不死鳥のように舞い上がる。アップルの成功の要因を考えるならば、それはコアなカスタマーにフォーカスした点が成功の真因なのではないか?60GBの容量は、根っからの音楽好きではない人には必要な容量ではない。正規分布で描かれる最も分厚い部分にフォーカスするのではなく、薄いテール部分の熱烈なる信奉者を相手にしてきたからこそ、アップルはかくも偉大な革命を二度も起こしえたのであろう。
恐らく、スティーブ・ジョブズの今書店で平積みにされている自伝本にその鍵が開かされているのであろうが、年末年始にでも読んでみたい。

【お知らせ】
次週の更新はお休みいたします。

Posted by Ken Kodama at 2005年11月26日 13:44
Comments
Post a comment









Remember personal info?