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2005年12月16日

構造計算書偽装問題と『静かなリーダーシップ』

そこへ、律法学者たちやファリサイ派の人々が、姦通の現場で捕らえられた女を連れて来て、真ん中に立たせ、イエスに言った。「先生、この女は姦通をしているときに捕まりました。こういう女は石で打ち殺せと、モーセは律法の中で命じています。ところで、あなたはどうお考えになりますか。」イエスを試して、訴える口実を得るために、こう言ったのである。イエスはかがみ込み、指で地面に何か書き始められた。しかし、彼らがしつこく問い続けるので、イエスは身を起こして言われた。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」
(ヨハネによる福音書より、直接的にはこちらのサイトより引用させていただきました)

構造計算書偽装問題で、証人喚問に立った4人を「極悪人」と見下し、「彼等にはモラルの片鱗もないのか」と憤慨して見せることは実に容易いし、ヒロイックな快感すら誘う。しかし、このブログを読むあなたには、本当に彼等に石を投げる資格があるのだろうか?
こんな例を考えてみよう。これはアメリカの話である。アメリカにおいては、未承認の用途で医薬品を販売することは、法により禁ぜられている。にも関わらず、ある鬱病薬としてのみ承認されている薬物が、禁煙や痩せ薬としての用途で売上を伸ばし始める、ある会社が存在した。会社としては、この薬品を禁煙や痩せ薬としての用途で販売せよと、積極的に営業マンに指示をしているのではなく、その意味では法令に違反していると明確に断ずることはできない。しかし、一方では禁煙や痩せ薬としての用途を医師から質問されたときの応対法を営業マンに伝授していた。また、これらの用途のために販売された売上に対しても、営業マンにインセンティブを与えていた。
厳しいビジネスの世界においては、法令違反と明確に断ずることができなくとも、ギリギリの線に立たされることが往々にしてある。そのような場合、人がとりうる態度は、おそらく以下の4つに大別できるのではないか?

①自らが鈍感、かつ知識不足であるため、そもそも自らの立たされている困難に気がつかない。
②良心の呵責を無視して仕事に従事する。
③「これがビジネスの厳しさなのだ」と悟り、「大人」になることで、自らの感覚を麻痺させる。
④内部告発等の手段に訴える。

おそらく、大半の優秀と称されるビジネスマンは②か③のオプションをとるのであろう。なぜならば、自らの昇進の機会を逃したくないなどの、極めて利己的な動機が背後に存在するからである。では、こうした卑しい動機を持つ人々は「石を投げられる」べき人々なのであろうか?彼らが、ヒロイックな動機に基づき内部告発をしたのであれば、昇進の機会はおろか自らの雇用すら失い、その評判から次の雇用主を見つけることすらままならない恐れもある。とするならば、②か③のオプションをとることは、やはり家庭を抱えたビジネスマンにとって必須の選択なのであろうか?
必ずしもそうではなく、第三の選択肢があると説くのが、『静かなるリーダーシップ(ジョセフ・L・バダラッコ著、翔泳社)』であり、同著の目的は「自分の価値観に基づいて生きながら、自分のキャリアや評判を危険にさらすことなく、困難で深刻な問題を引き受けたい人々に、有益で実践的な発想を提供する(同著より引用)」ことである。
先のアメリカの例も実は同著に記載のケースを、若干表現を変えて転載したものである。このケースの会社で働くコルテス氏の心の中では、会社の方針と自らの倫理観との間で葛藤が生じることとなる。そこでコルテス氏がとった現実的なアプローチとは以下のようなものであった。

①未承認である禁煙や痩せ薬としての用途について聞かれても、質問に答えないこととした。
②既に未承認の用途で使用していた医師に対しては、未承認用途で使用した場合のリスクと副作用について説明した。

コルテス氏はこのような極めて現実的なアプローチを採ることにより、自らのキャリアと価値観を両立させたのである。
冒頭に引用した聖書の一節のテーマは「赦し(ゆるし)」であるが、もちろん構造計算書偽装問題の4人衆を赦せなどということを言いたいのでは決してない。しかし、この一連の報道は、他山の石などではなく、みなさんのビジネスマンとしての日々の行いの縮図であると考えた方が、恐らく将来のリーダーとしての人格形成にとって大きくプラスになるのではないかと考え、僭越ながら意見を述べさせていただいた。
ビジネスの倫理は、私が個人的に関心のあるテーマである。下記のエントリーを今年3月に執筆したが、当時よりは自分の考えは一歩前進したのではないかという気がする。

日本では置き去りにされてしまった"And Ethics"の視点

Posted by Ken Kodama at 2005年12月16日 10:09
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