日本は耐震強度計算問題に揺れ、そしてお隣の韓国は黄教授のES細胞捏造疑惑で揺れています。偽装と捏造はもちろん程度が異なりますが、「他人を欺く意図がある」という点では共通しており、両者の問題を比較すると偽装が生まれる共通条件というものが浮かび上がってきます。私の観察によれば、以下の3つが偽装の背景にあると考えます。
①高度な専門性を有する分野であるため、外部からのチェックが働きにくい。
②偽装・捏造の当事者には強い「達成欲求」があった。
③偽装・捏造の当事者に対して強いプレッシャーがかけられていた。
ここで、解説をしておくべき用語は、「達成欲求」です。これはマクレランドの唱えた欲求理論の概念であり、他に「親和欲求」「支配欲求」と合わせて、人間の欲求を3つに分けて理論を展開していますが、もう少し詳しいことに興味がある方は、こちらのサイトをご参照下さい。
達成欲求とは、文字通り、「なにごとかを成し遂げたい」とする欲求のことです。急成長を遂げている企業の源をたどれば、必ず達成欲求の強い従業員による大きな業績への貢献につきあたるはずであり、達成欲求の強い人材は企業の成長にとって欠かすことができません。両事件の渦中の姉歯氏と黄教授も、報道から観察される細かい事実から達成欲求の強い人物であることが推察できます。
問題は、この達成欲求の強い人々に強いプレッシャーが課せられたときに起きるのです。両事件においては(黄教授においてはまだ真偽のほどは定かではありませんが)、「欺瞞」という最悪の形で、問題が表出してしまいました。達成欲求とプレッシャーの関係は学問的にも裏づけのある事実であり、たとえばマクレランドは『モチベーション―「達成・パワー・親和・回避」動機の理論と実際』という著書の中で、以下のような実験の結果を述べています。
(引用始)
『つまり生徒たちは、モチベーションへのプレッシャーがきわめて高い、またはきわめて低い状況ではなく、中程度のプレッシャーがかけられているときに、最もたくさん算数の問題を解いたのである。』
(引用終、同著98ページより)
では、このプレッシャーなるものはなんであるのかを突っ込んで考えてみると、それは結局はその上位者の達成欲求であるのではないかと私は思うのです。耐震強度計算問題においては姉歯氏に指示をしていた篠塚元支店長、そして黄教授の上には「国家としての達成欲求」が、両者に対してプレッシャーをかけていたのではないでしょうか?このような強度の達成欲求の連鎖が存在する組織の中で、業務が高度な専門性により外部からのチェックが働きにくくなったときに、偽装問題は発生するというのが私の考えです。そして、この「強度の達成欲求の連鎖」を後押しするのが、非現実的な業績目的を冠に掲げたMBO(Management By Objectives)であるのかもしれません。
東証のシステムの問題にしても、広い意味でいえば「偽装」の一種である可能性が高いとすらもいえます。私は10年以上も昔のプログラマー時代には、プログラムの全ての条件分岐に対してデータを流してテストして結果の記録を文書として残すよう、指示されてきました。しかし、「極めてタイトなスケジュール」という形でプレッシャーが課せられれば、プログラマーは実際にデータを流していないにも関わらず、「全ての条件に対してテストを実行した」と「偽装」するかもしれません。
これらの全ての「偽装」問題に対して発表される解決策は、チェック機能の強化につきるでしょう。しかし、いたずらにチェック機能を強化し、管理文書が膨大になれば、今度は「管理文書は適当に書いておこう」という「怠慢」を誘発しかねません。
過去10年以上にわたって財務系のキャリアを築いたときに私の中に芽生えた信念は、「どのような部署であっても、財務的なマインドを持つべき」というものでした。最近、ヒトに関わる仕事が増えてくると、「どのような部署であっても、ヒトに対して本質的な理解を持つべき」との信念が芽生えるようになってきました。偽装問題への対処においても、形式的なチェックのみ頼るのではなく、人間の本源的な欲求の鋭い洞察に根ざした解決策を目指さねば、根本的な解決策とはいえないのではないかと私は考えます。