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2006年05月15日

再々考 村上ファンドの何が「悪い」のか?

最近、古館氏のニュース番組などを見ると、村上ファンドは既に「悪者」として扱われている感じである。私はといえば、今までは村上ファンドについては、どちらかといえば擁護してきた人間である。例えば、下記のようなエントリーにおいて。

今回も「理」にはかなっていた村上ファンド

正直なところ、私の関心はご存知の通り移ろいやすく、今の阪神騒動の詳細を把握しているわけではない。しかし、世間一般が「悪い」と認識しているものを、擁護する趣旨のエントリーを書いた責任があるわけだから、最近の村上ファンド批判の論調を改めて検証してみようかというのが本日のエントリーの趣旨である。(「責任」といってもネット上で物を書いたものとしてのエチケットという意味合いで、はっきりと断り書きがしてあるように、このブログ記述をもとに行動を起こして損失を被ったとしてもなんら責任は負えませんので、念のため)

さて、村上ファンドの「善悪」を検証するにあたって私が参照したのは、本日発売された東洋経済である。村上ファンドの特集を組んでいるので、先端的な経済誌である東洋経済の編集者の問題意識をもとに、私なりの検討を加えるというアプローチで村上ファンドの考察を行っていきたい。ただし、まだ「ざざざっ」と斜め読みしただけなので、東洋経済の論調についてインプットが不完全である点についてはご勘弁いただければと思う。また、論点の抽出もかなり恣意的である。

①「株式の買い集め方法が問題である。」との批判

株式の大量買い集めを発行会社に気がつかれないように推進したことが、一つの問題として指摘されている。阪神株の取得については、普通株のみならず転換社債と完全子会社化された阪神百貨店の株式を短期間で買い集め、その様を東洋経済は「鬼買い」と形容している。
当然、株式を大量保有するに際しては、大量保有報告のルールを遵守することが求められるが、私は正直なところこのルールの詳細を知らない。したがって、「村上ファンドがルールを遵守しているならば」との仮定にのっとって議論を進めさせていただくと、転換社債も上場子会社の完全子会社化も、これは当然に親会社の支配権獲得につながりうる資本政策であり、こうした「潜在的な」議決権買い増しに対して、阪神があまりにも無防備であったことが、むしろ批判の対象とされるべきではないか、と私は思う。
加えてあくまで「一般論」上の話ではあるが、子会社上場も転換社債の発行も、株主の利益につながることは概してない。こうした、株主軽視の資本政策のツケが阪神の経営陣を悩ませているといっても過言ではなかろう。

②「保有株式の株価が上がらないと騒ぎ出す」という批判

例えば、本日発売の東洋経済にはこんな記述がある。

(引用始)
『買っても、株価が上がれば特別な要求をせずに、いつの間にか株式を売却している場合も少なくないが、思いどおりに株価が上がらないと、注目を集めようと騒ぎ出す。』
(引用終)

株価の上昇のために、株主が騒ぐというのは、私はむしろ健全であると思う。株主がサイレントでありすぎたがために、上場企業の経営陣は株主価値の向上を省みなかったのではないか?村上氏が日本経済に対して果たした最大の貢献は、おそらく「株主価値の向上のためにアクションを起こした」ことであり、多くの企業が正当な防衛策として、配当アップなどの施策を打ち出した事実は否定できまい。
しかし、先日『ブロードキャスター』を見ていたら、早大の榊原教授が、そもそも経営権を支配するつもりもないのに、経営権支配をちらつかせる村上ファンドの手法に関して、「風説の流布」を示唆するような発言をされていた。ここでもまた、村上氏の行動が風説の流布に該当するか否かの判断は私には専門的すぎてできないのだが、パフォーマンスも法令の枠内にとどめておくことが重要であるのは、当然である。

③「そもそも長期保有するつもりがないじゃないか」という批判

私と非常に近いメッセージを発し続けてらっしゃるような気がして、私が一方的に親近感を抱いている企業年金連合会専務理事の矢野朝水氏は、東洋経済のインタビューに答えて、『阪神電鉄株を持ち続けて、経営に一定期間コミットすること(引用)』が重要であると指摘している。矢野氏の発言の背景には、バフェット流の投資術が念頭にある。恐らくはこの指摘に対して「善悪」のようなものを判断しようとすることが、最も難しい。
私の知る限りでは「大株主は長期的に株式を保有せねばならない」といった、株式の保有期間を制約する法律は存在しないはずである。したがって、この指摘は法の外側の問題ということになる。
もし、バフェットに「あなたはなぜ長期間株式を保有するのか?」と問うたならば、私の勝手な憶測だが「それが利益を多く生み出すから」と即答するような気がする。村上ファンドとて、利益が出る水準にまで株価が回復したのだから、売却しているにすぎない。恐らくは、根源的な動機というレベルではバフェットも村上氏も大差はないはずだ。村上ファンドが株式を購入した後に短期間に売却できるほど株価が動くというのは、それだけ日本の株式市場が非効率的であることの裏返しであり、非効率な株式市場の適正化に貢献していると村上ファンドを評価することもできる。
一方で、大株主としての社会的責任といったものを、恐らく世論は求めているのかもしれない。一企業の財務戦略に圧力を与えるのであるから、一定期間その企業の経営にコミットすべきであるというのはもっともな正論である気がする。

④「一般株主の利益を尊重していない」という批判

(引用始)
『むしろ自分たちの利益が確保できれば、他の株主利益は犠牲にすることもお構いなしの様相だ。』
(引用終)

上記も本日発売の東洋経済からの引用であるが、違法行為である有利発行の疑いが濃厚な行為に加担する類のものは当然ながら控えられるべきである。しかし、株式投資とはそもそもゼロサムゲームである。自分で適正と思った価格で買い、自分で適正と思った価格で売却して利益を得る。この場合、適正な株価を読み間違えている他の株主が存在しないことには、株式投資により利益を得ることは不可能である。したがって、「一般株主の利益を尊重していない」と村上ファンドを批判するのは、株式投資の根本的なルールを否定するのに等しく、私には全く的外れなコメントに聞こえる。

こうして私なりに考察していくと、もちろん法令を遵守しているという仮定が成り立つという前提のもとでの話だが、私には村上ファンドはビジネスエシックス(倫理)の基本を踏まえているように見え、そこが株主を欺こうとした意図が明白であるライブドアとの根本的な差異であるように思われる。

・・・しかし、恐らくは読者の多くの方は、納得がいかないと思う。「でも村上ファンドは、あなたがなんといおうと悪いと思う!」こういう素朴な感覚を大切にすることは重要であるが、その感覚の源泉に迫り、文章として論理的に表現して、真の問題点に肉薄していこうとする姿勢が重要であろう。
依然として違和感を抱いている方の心を代弁させていただくならば、それは村上氏の人間性に起因するものであろう。確かに彼は人格的にあまりにも多くの問題を抱えている。例えば、言動不一致。他の株主を出し抜いて利益を得ようとしようが、短期間で株式を回転売買しようが、それは資本主義社会で認められた自由である。しかし一方で、村上氏は保有株式の価値を上げるためのパフォーマンスの一環として、一般株主の利益の向上や長期保有を謳っている。こうした言動不一致は、「人として」戒めるべきものである。
あるいはRespectの欠如。バフェットは株主としての権利を行使しながらも、経営陣を経営のプロとしてのRespectを忘れずに接近する。今回の阪神の取締役入替案には、永年に渡り阪神圏の足としての大役を担ってきた、阪神経営陣に対するRespectは微塵にも感じられない。Respectがないのだから、経営陣との関係構築がままならず、短期売買にならざるを得ないということもできよう。
また、経営陣との関係構築が不得手であるというのは、対人的ななスキルの欠如に原因があるといえるかもしれない。ホリエモンは騙す意図が明白にありながら、一般大衆を味方につけることにかけてはピカイチの腕をもっていた。一方で、村上氏はホリエモンほど「騙そう」としていないものの、一般大衆から総スカンをくった。村上氏の投資手法は、一般大衆のハートをも掴むべき極めて高度な対人スキルを要求されるのに、そのスキルはあまりにも未成熟である。
私のカテゴライゼーションにしたがえば、村上氏の問題はスピリチュアリティの領域にあるといえよう。そう『オーラの泉』が扱うスピリチュアリティだが、このワーディングに抵抗があれば「倫理」といっても、「インテグリティ」と言っても構わない。

『オーラの泉』が職場に進出??? 21世紀の人材育成と「スピリチュアル」

以前私は上記のタイトルのようなエントリーを書いて、近い将来、人材育成の場でスピリチュアルが語られるのではないかと予測した。しかし、これは、またもや私の認識不足に基づくものであったことが判明した。神戸大学の金井教授の『働く人のためのキャリア・デザイン』によれば、既にアメリカでは職場におけるスピリチュアリティの議論が始まっているそうである。
村上ファンドやホリエモンを「拝金主義」と片付ける論理的な基盤には稚拙なものが多い。が、その結論については、どうやら正しいのだろう。資本主義経済下でのスピリチュアリティ。一見、相容れない2つの概念の相克に悩むことが、私のライフワークとなるような気がする。

Posted by Ken Kodama at 2006年05月15日 10:30
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