執筆者のプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif

2006年05月20日

ソフトバンクの『異例の財務手法』と孫正義の『モータリティ』の自覚と無垢な投資家達

本日の日経新聞11ページでは、『ソフトバンクどこまで強いか』と題された連載コラムの中篇で、『異例の財務手法駆使』とサブタイトルを冠し、以下の「異例の財務手法」を紹介している。

● 営業部隊を移管したインボイスとの新会社への出資比率を15%未満に抑え、連結に含めないようにした。
● ADSLの新規営業を抑制し、営業損益を850億円改善。
● 内外の投資先の株式を処分して多額の売却益を計上。
● ADSLモデムのレンタル事業を売却。
● 2年前にコールセンターを売却

もちろん、記事が一定のスクリーンに基づいて事実を取捨選択している事実にも注意せねばならないが、これらに財務手法に共通する事項としては①手元のキャッシュの増加②収益の先取り③将来の成長の放棄の3点が挙げられる。
①は分かりやすいが、②の「収益の先取り」だが、一般に事業を売却すれば将来収益を先取りし、それがP/Lに反映されることとなる。ローン債権等の証券化も同様の効果をもたらし超過利潤が一括で計上される効果をもたらすが、会計の解釈上の誤解を嫌ってなのか、証券化の解説本ではオフバランスの効果を仕切りに説くものの、P/Lへの影響はあまり詳述されていない。では、なぜワンタイムで巨額の利益がP/L上に計上されているかといえば、それは上記③で記述したように、将来の成長を放棄したからに他ならない。
「いつでも黒字にできる」と豪語していた孫氏の会計戦略は、上記のような将来成長を犠牲に立脚した一過性の利益の上に成り立っているのに過ぎない。孫氏の戦略転換を説明する要因としては、ボーダフォン買収という外的要因のみが強調されるが、彼の内面からの説明をここで試みてみたい。先日も紹介した神戸大学の金井教授の『働くひとのためのキャリアデザイン』に啓蒙され、現在私は発達心理学に関する本を夢中で読んでいる。同著によれば、発達心理学の見地からすると、「45歳ぐらいになると、死から逆算できるようになる(同著より引用)」のであって、その逆算思考により夢の実現に向けて邁進するようになるのであるという。孫氏は私より11歳上であるから、現在48~9歳のはず。発達心理学から見た転機に差し掛かっており、彼の内面の変化がソフトバンクの戦略に重要な変化を与えているという仮説も考慮に値すると思う。しかし、一個人のモータリティ(やがて死すべき運命)の自覚が上場企業の企業戦略に重大な変化をもたらしているのだとすれば、株主としては今以上にコーシャスになる必要があろう。
で、日本の投資家達はどうであるかといえば、5月19日の日経金融新聞の『見かけの業績、株価撹乱』と題したスクランブル欄の記事によれば、私が想像した以上にマネーリテラシーに乏しいようである。同記事を要約すれば、新日鉄等の株価の観察に基づけば、投資家達は特殊な会計要因を読み解く力をもたず、ボトムの利益の増減で投資判断をしているらしい、というもの。まさに、この投資家にしてこの経営者ありといったところか。
なお、ソフトバンクの株価に関して過去に私が考察したエントリーは以下の2つ。お時間がある方は、特に前者はタイトルが面白いと思うので、読んでみて下さい。

「利益を出す」とどよめかれる会社

そろそろソフトバンクの『敗因』を語ろうではないか。

Posted by Ken Kodama at 2006年05月20日 14:47
Comments
Post a comment









Remember personal info?