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2006年07月13日

PTSとネット証券業界のメンタルモデルの転換の兆し

私が以下のようなタイトルのエントリーを書いて、ネット証券業界の発想の貧困を嘆いたのは、今から約1年前のことであった。

コモディティビジネスと化したネット証券に出口はあるのか?

実は、上記のエントリーを書く直前に胆石の発作を起こして救急車で病院にかつぎこまれていたのだが、あれから1年たったのだと思うと感慨深い。個人的な体験はさておいて、本日の日経新聞の7ページや、あるいは日経金融新聞の1面に紹介されている、カブドットコム、及びイー・トレード&楽天&SBI陣営による夜間取引のPTS(私設取引システム)の動きは、ネット証券業界のメンタルモデルの転換の兆しを彷彿させる現象であるといえよう。本日の日経新聞7ページでも、この動きは「ネット証券のサービス競争は手数料からコンテンツ勝負という第二幕に入った。(引用)」とまで評されている。
ここで私が使った「メンタルモデル」という言葉だが、私が最初にこの言葉にお目にかかったのは、あのベストセラーのピーター・センゲの手による『最強組織の法則』においてである。この著作には、「心の奥底には世界の仕組みに関して深く秘められた各自のイメージが存在し、それが新しい見識と相容れないせいで実行の段階まで進めないのだ。(引用)」との記述があり、上記の文章の前段が「メンタルモデル」の定義といってよいだろう。そして、ビジネスにおいてイノベーションを起こすには、このメンタルモデルに働きかける必要がある、としているのが最近発売された『インポッシブル・シンキング(日経BP社)』という著作である。私なりに「メンタルモデル」という言葉を言い換えれば、それは個々人の「信」であるということになる。「信」を変えればイノベーションが起こる。部下を「信」じてエンパワーメントを実践すれば、組織の生産性は増す。こんな「信」のパワーがあるからこそ、私は例えば下記のようなエントリーを書くことによって、「信」が形成されるプロセスに着目しているのである。

人はいかにして「信じる」のか? トフラーの答え

本日のタイトルの内容の基礎的な部分に関する記述が長くなってしまった。前置きはこれくらいにして、では日経新聞がこの動きをネット証券業界の「第二幕」と表現するならば、「第一幕」の同業界のメンタルモデルとはどのようなものであったのか?おそらくこんなところであったのだろう。

ネット証券業界「第一幕」のメンタルモデル

①主としてターゲットとすべき顧客はデイトレーダーである。
②したがって価格競争こそが全てである。
③ネット証券各社は、証券売買に関わる全てのサービスを垂直的に統合して提供すべきであり、他社との合従連衡は考えられない。

おそらく上記のようなメンタルモデルがネット証券業界を支配していたため、「消費者」達は低価格という便益を享受できたものの、高付加価値という観点からは、必ずしも満足のいくサービスを享受できていなかった。そこで登場した「夜間取引市場」は(FPとしての私の価値観とは相容れないが)一つの高付加価値の方向性であるといえよう。しかし、夜間取引市場の導入にあたっては、コスト流動性の確保という難問をクリアせねばならない。本日の日経金融新聞によれば、カブドットコムのシステム導入コストは20億円から30億円とのこと。また「取引所出身者らが不公正売買の監視などに当たる。(引用)」とあり、ランニングコストも馬鹿にならない。したがって、各社が個別に対応するには無理があり、したがってSBI連合のような合従連衡が必要となる。
「夜間取引所」のような、合従連衡の上にしか成立し得ないような馬鹿高いコストのサービスが、ネット証券業界「第二幕」の開幕のサービスとなったことから、「全てを自前でそろえねばならない」という呪縛から、各社経営陣は解放されたのではないか?Web2.0的な用語を使えば、マッシュアップの動きを加速化していくことが期待される。異質な2者を結びつけることこそがイノベーションである。したがって、「垂直的にフルラインに提供せねばならない」という呪縛から開放されれば、売買の取次機能すら持たない「ネット証券会社」も登場するかもしれない。
例えばアナリストが手薄である「中小型株」に的を絞り、消費者が情報提供や分析を手掛けるCGM型のビジネスを手掛ける会社が登場してもよい。ただで分析をするお人好しの「消費者」なんているのか?証券アナリストに憧れて証券会社に入社しながら、資金決済を担当させられてくすぶっており、自らを「正当に認められていない」と感じている人材は多くいるはずである。同様の不満を持ったIT系の人材が「リナックス」というプロジェクトの成功の鍵を握っていたわけだから、こうしたビジネスモデルが不満をかかえた人材の自己実現の場として機能する可能性は大いにある。
あるいは長期投資を志向する人々同士の「投資クラブ」的なリアルなつながりを支援するSNSがあってもよいはずだ。一度、ネット証券各社の経営陣が旧メンタルモデルの呪縛から解放されれば、多彩なアイデアが登場し、もう私から「コモディティビジネス」などと揶揄されることはなくなるであろう。

Posted by Ken Kodama at 2006年07月13日 09:40
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