8、9月は忙しく、すっかりと執筆が滞ってます。色々と「書く」ことが多く、正直なところこれ以上「書く」ということを想像すると、吐き気を催してしまいそうな、そんな感じです(笑)。が、標題のバンガードの方針転換に関する昨日の日経金融新聞の記事はなかなか興味深かったので、書きながら考えを深めてみたいと思います。
私がなぜ、バンガードなどという会社に着目しているかといえば、それは一重に下記の著作ゆえです。
これはバンガード社というアメリカのインデックスファンドを主体とする投信会社の初代の社長ボーグル氏の手による著作です。ずいぶんと分厚い著作ですが、文体はなかなか平易で、ハートのこもった文章で、資産運用をメインとするFP業を営んでいる人は絶対に読まねばならない本だと思っています。
分厚い本ですが言っていうことは極めてシンプルです。すなわち「効率的市場仮説は成立する」と「コストは悪である」の2点につきます。前者の「効率的市場仮説」についてメンドーなことを大幅にはしょってごくごく簡単に説明すれば、「株を買うならインデックスファンドが一番」ということです。情報が瞬時に伝わる「効率的」な株式市場において、他者を出し抜いて市場平均を上回る高パフォーマンスをあげ続けることなど、不可能であるということを、この本はアメリカの様々なデータを使いながら立証しています。
「市場平均を上回ることなど不可能である」という仮説が真なら、そのもとでの最も正しい戦略は「(1)市場平均に近いインデックスファンドを保有し、(2)コストが低いファンド選ぶこと」になります。そして、この理論にのっとって、良質かつ低コストなインデックスファンドを販売してきたのがバンガード社なのです。彼らのビジネスモデルは、効率的市場仮説を基盤として、実に理路整然として組み立てられているわけです。
彼らにとって「コストは悪」なわけですから、必然的に販売チャネルも余分な中間業者の介在する余地のない直販が主流を占めるわけです。で、ようやく「方針転換」の話題に入れますが、そんなバンガード社も日本でいうところのFPのようなファイナンシャル・アドバイザー(FA)との連携強化に動き始めたというのが、バンガード社の方針転換なのです。こうした方針転換の背景には2つの変化があると、現CEOのブレナン氏はインタビューに答えています。
(引用始)
『これまでノーロード投信を購入してきた当社の顧客も、老後の生活資金の確保などを迫られ、資産運用の助言へのニーズが高まっている。』
『証券会社やFAは、(売買時に発生する手数料であるコミッションから)顧客の預かり資産をもとに、フィーを徴収する料金体系に移行しつつある。』
(引用終)
前者の助言へのニーズということで私の思うところをいえば、例えば日本でノーロードのインデックスファンドを買う人というのは、ネットでの書き込み等を見ると、以外にファイナンシャルリテラシーに乏しい人々であるということに気がつかされます。どういうことかというと、彼らは「手数料ゼロ」ということだけにひかれてノーロードファンドを購入しており、効率的市場仮説などお構いなしです。ですから、「彼らが安いと思うところでノーロードインデックスファンドを買って、高いと思うところで売り抜ける」という、いわゆる短期売買のマーケット・タイミングを行っているのです。こういうタイミングが分かれば「1億皆億万長者」というユートピアが誕生するわけですが、もちろんそんなことはなく、結局マーケットタイミングの失敗で、焼けどを追っている人々が多いのです。
また、海外の市場へのアクセスが容易になり、REITや商品ファンドのような新分野が徐々に大きくなりはじめると、効率的市場仮説信奉者といえど、全資産をTOPIX連動ファンドにぶっこむという単純な手法では、様々なチャンスを逃すことになるわけです。したがって、効率的市場仮説をベースとしたアセット・アロケーション行うことが不可欠となるのですが、残念ながら、ここまで理論的な基盤を理解するにはなかなか時間がかかり、プロの助言が大いに有効となるわけです。
手数料体系についていえば、買ったときに手数料が発生するコミッションは、売り手に回転売買を顧客に勧めてしまうインセンティブがどうしてもぬぐえず、顧客とFAの間で利害の対立が生じてしまいます。そこで、預かり資産残高ベースの手数料体系に移行すれば、顧客の利回りが若干減少するという点は確かに否めないものの、それでも顧客の資産が増えることは、顧客にとってもFAにとってもハッピーなことですから、利害の対立が生じにくい仕組みであるといえます。
このような2つの変化を察知し、バンガードがFAを重要なパートナーとして認めるチャネル戦略を展開しはじめたことは、賢明な投資家にとっても、またFAにとっても歓迎すべき動きだと私は思っています。
で、日本はどうか?私も当初は証券仲介業者として登録することを検討していたのですが、現段階では見送っています。というのも、証券仲介業者の手にできる手数料の取り分はごくわずかであり、かなりの資産残高を抱える富裕層を顧客にとりこまないことには、ビジネスが成り立たないからです。3~40代の資産形成期にあるお若い方こそ良質のアドバイスを必要とするのですが、そうした方の資産残高は証券仲介業者に適正な利潤をもたらすほどには十分ではなく、この既存のビジネスモデルを使って、資産残高の少ない顧客とFPのWin-Winは構築できないと私は考えています。
でも、イノベーションの余地はあるはずです。金融機関がこぞって富裕層に狙いを定めるのは、まさしく発想の貧困であり、また浅ましくさえ思います。では、どんなイノベーションがあるのか?少なくとも執筆している40分の時間内では、私の頭にアイデアは飛来してきませんでした(笑)。