お久しぶりでございます。まだ忙しさの余波は続いているのですが、そろそろ「別腹」で文章が書きたくなってきたので、デザートを食す感覚で久々にエントリーをアップしてみたいと思います。
今日の日経金融新聞の『理論株価が示す割高感』と題したスクランブル欄のコラムは、なんとなく私が過去に執筆した、下記のエントリーを思わせる内容であった。
一言でコラムを要約すると、「現在の株価水準は理論価格に比べて割高である」という、何の変哲もない陳腐な内容になってしまうが、コラムニストがこうした結論に行き着いた思考プロセスが興味深い。
まず、理論株価だがDCF法をベースに『現在の純資産に今後稼ぐ利益を加え、二十年後に株主へ分配する(引用)』との想定のもと計算された模様である。ここでまず、注目すべきは「20年」という期間を区切って理論株価を算出している点である。ファイナンスの教科書に登場するように、無限の未来へと続くCFは計算対象外としているのであり、したがってその分ここで計算される理論価値は教科書的な理論価格より低くなっているはずである。にもかかわらず、割引率を3%から5%と仮定した場合、現在の東証一部の株価から逆算した「今後20年間の純利益の成長率」は以下の通りになるという。
割引率 成長率
3% 4.01%
4% 6.36%
5% 8.35%
しかも、『割引率はDCF法で使う資本コストに近いので、実際はもっと高いかもしれない(引用)』とのことである。実際の割引率がもっと高いのであれば、現在の株価にはもっと高い成長率が織り込まれているということである。・・・もっと高い成長率って、例えば10%近い成長率で、東証1部に上場する企業の利益が増え続けるって、まぁ、子供の頭で考えてもありえない話である。
で、追い討ちをかけるように、元GS東京支店長の佐藤努氏の『21世紀に成長株は存在しない。一時的に伸びる会社はあるが、せいぜい続いて5年だ(引用)』とのコメントが紹介されている。で、このコラムを書いた磯道真氏も最後は、『M&Aのさらなる増加で、企業の「値段」を厳密に算定する時代が到来した時、果たして今の株価は通用するのだろうか。(引用)』と、さながら私の禅問答シリーズのような結び方をしている。
・・・一体、何がおかしいのか???磯道氏のロジックのどこかが破綻していて、現状と乖離した「杞憂」を展開しているというのか?あるいは、本当に現在の株価が、理論株価に比して高い水準にあるというのか?忙しさでただでさえ鈍い「冴え」が輪をかけて鈍っている私の頭で考えてみるに、おそらく、後者が正しいのであろう。つまり、このコラム通りに現在の株価は理論株価に照らしてみればやはり高いといわざるを得ないのであろう。
思えばこの辺りのファイナンスの理論が精緻化されたのは前世紀の後半に入ってからのことである。前世紀では、すくなくとも優良企業は「未来永劫続くエンティティーである」と考えても何もおかしくなく、その前提に立脚して作られたのが「永続価値」を前提にする理論株価モデルである。
前世紀の終盤から「経営環境は激変している」というのはいわば枕詞のごとく常識化している事実である。あのソニーとて10年後どうなっているかは、誰にも予想のつかない話である。そんな未来の話をしなくとも、今日の苦境に陥っているソニーを誰が1年前に予想できたというのか?
果たして象牙の塔で作られたファイナンス論は、昨今の経営環境の激変を受けて、なんらかの変化を遂げたのであろうか?恐らく答えは「否」であろう。「今日の経営環境の複雑化を反映してリスクとしての割引率を増やせばいいだけ」という意見もあろうが、ではここ10年間において実務的に割引率が引き上げられることはあったのであろうか?MBAコースを履修している学生は「戦略論」で経営環境の激変を教わりながら、片や「永続価値」などという悠長なモデルに乗っかっているファイナンスの講義を受けて、一体彼らの内面ではどうやって折り合いをつけているのであろうか???
まあ、こんなことを言ってしまっては、また批判を受けるかもしれないが、ファイナンスの株価モデルも一種の「信仰」に過ぎないといっても過言ではあるまい。「江原さんと美輪さんは絶対ホンモノ!」という人々と、DCF法の上にビジネスを展開する人々も、「信心深い人々」という点で両者は共通しているといえるのかもしれない。
ビジネスにおいては頑迷な信仰を打破することにより、イノベーションが生まれ、大きな富が創出される。しかし、このDCF法信仰については、打破されることがあってはならないのかもしれない。だって、クラッシュが来ちゃうじゃん。金融の世界に身をおいておく人々は、やはり頑なな信仰心を抱き続けてもらわねば、我々の年金がとばっちりを受けてしまうのである。
で、タイトルをリフレイン。
迷える金融マンよ、信ずる者は救われる
Posted by Ken Kodama at 2006年10月03日 16:58