この~木何の木、気になる木~♪
私が物心ついたときから、日立グループのこのCMは継続されているはずだ。とてつもなくでかい木が画面いっぱいに表示され、日立グループ傘下の企業名が走馬灯のように流されれば、受け手としては「日立ってでっかい会社なんだな~」というメッセージを汲み取るのが普通だと思う。そして、その「でっかい」とは時価総額でも利益でも売上でもなく、「グループ会社に属する会社『数』」なのだ。
昨日の日経新聞朝刊によれば、そんな日立の経営方針の柱は「連結子会社数の約2割削減(引用)」であるらしい。一種のアイデンティティ・クライシスといった趣があり、今後もあのCMが継続されるのかどうか興味深い。
具体的には2010年までに、「2006年9月末で885社ある連結子会社を700社程度まで削減する(引用)」とのことであり、200社近くが撤退、売却の対象となるのだが、その際の基準となるのは「FIV」なるカスタマイズ化された、一種のEVAらしい。撤退・売却の判断に関する具体的なルールは下記の通りである。
(引用始)
『2年連続でFIV赤字事業を「要注意」に指定し、再建計画承認後2年以内に黒字化しない場合は撤退勧告をする撤退ルールを厳格に適用する。その事業に関係のない執行役を管理責任者に任命し、客観的な立場から構造改革を検討する。』
(引用終)
想像力を逞しくして、日立グループの子会社削減がどのように実施されるか考えてみたい。(あくまでも以下は私の想像というか、「妄想」の産物に近い。)まず、本社経営企画担当部門内に、10数名の少数精鋭からなるプロジェクトチームが結成される。彼らはなんの「精鋭」かといえば、「FIV」を駆使できるファイナンスの「精鋭」から構成されると予測される。ここで「FIV」だが、私は「FIV」自体については知りえないので、スターン・スチュワートの「EVA」ということで話を進めると、「EVA」の出発点となる「税引後利益」は公表財務諸表の「税引後利益」とはかなり異なり、私の記憶が正しければ、会計上の「税引後利益」からEVA上の「税引後利益」を算出するには100項目近くの調整が必要であるはずだ。最大の論点は「何を資産計上(Capitalize)と考えるか否か」であり、例えば研究開発費は会計上では原則的には費用であるが、EVAでは原則的にCapitalizeすべきアイテムと考える。
また、日立グループの子会社は800以上もあれば様々な事業を手がけているはずであり、当然それらの事業のリスクは異なり、その当然の帰結として、各子会社毎に適用される資本コストの値はまちまちになるはずである。で、最近のエントリーでも何度か書いてきたが、私自身この資本コストという概念がかなり「胡散臭い」と考えるようになるに至っている。「胡散臭い」とまでいわなくとも、「資産計上の可否」と「資本コスト」というのは、それほど客観的に信頼し得る指標ではない、とはいえるであろう。
で、子会社削減のために終結した日立の10数名のエリート達は、「日立グループのとしてのビジョン」や「各企業のコンピテンシー」といった定性的な情報に十分に時間を割くことができず、資本コストの大小や資産計上の可否といった不毛な哲学論争に身をやつしながら、売却すべき企業のリストを毎晩徹夜して作成する。担当取締役も社内の政治的な圧力に疲れ果て、最終的には「エイヤ!」で決断を下してしまう。
もちろん、このストーリーは私の「妄想」にすぎないのだが、幸田真音の経済小説と同等くらいの現実味はあると自負している(笑)。「とりあえずでかい」という以外に確たるアイデンティティーを持たない大きな木に、植木職人ロボットに機械的にはさみを入れさせれば、さぞかしポストモダンちっくな先鋭的な植木が完成するに違いない。幹にハサミを入れないようにさえプログラムしておけば、すぐに枯れることはないであろうが、はたから見ていて景観をそこねる植木ができあがることは、ほぼ必死であろう。
大丈夫か、日立グループ?私の書いたこのエントリーが、将来の笑い種と扱われるべく発奮して、真っ当な改革を推進していただければ幸いである。