本題に入る前に余談を。私の事務所(と呼ぶほど大したものではないのですが)から税務署までは、駅で1駅、歩いて15分という微妙な距離。昨日、年末調整のための資料を税務署に取りに徒歩ででかけていったのですが、帰りに「同じ道を歩いて帰ったのではつまらない」との邪念がかすめてしまったのが、惨事のきっかけ。そのつもりもなかったのに、期せずして1時間以上のウォーキングをするはめに・・・私のような人間は、コンパスを携帯して東京を歩いた方がよいのかもしれません。
さて、本題ですが、先日の「発達」というテーマにからめて。先日のエントリーをお読みいただいた方には、こういう方もいらっしゃるかもしれません。
「仕事を通じて人として発達するかしないかは、個人の内面の問題で、好きな人が目指せばよい。自分は今のライフスタイルで十分ハッピーだし、仕事も充実していて、パフォーマンスも悪くない。発達を目指したいならご勝手に。俺には関係ない話だね。」
ごもっとも。こういう方にノルマを課された宣教師(こんな言い方はまずいですか?)の如く、私の考えを押し付けるつもりは、さらさらありません。でも一つだけ、教えておくと、高度に発達した人々はそうでない人々に比べて仕事のパフォーマンスが高い、という調査結果もあるのですよ。これからお話する事項の出典は、下記の本になります。
先日のエントリーで、成人の発達の段階を示すフレームとして色で表現される『スパイラル・ダイナミクス』をご紹介しましたが、本日ご紹介するのは『Action Inquiry(どう訳せばよいのか分からん)』という別のフレームをご紹介します。こんな感じです。
Opportunist 3%
Diplomat 10%
Expert 45%
Achiever 35%
Later action-logics 7%
この段階の内容を詳述することはあまりにヘビーなため、取り合えず、「上よりも下の方が高い発達段階にある」と押さえて下さい。例えば、「
Achiever」の段階にいる人は、「Diplomat」の段階の人よりも、「自我中心性が減少している」ということが言えます。そして、横のパーセンテージは、上記の本の著者がアメリカの497人のマネージャー(管理職者)を対象に調査した結果を表した分布状況です。
さて、上記のフレームにおいては最も高度な発達段階にある「Later action-logics」という段階ですが、ここはさらにいくつかに分かれます。ここでは簡便的に、「Later action-logics」の最初の段階が「Individualist」と呼ばれ次の段階が「Strategist」と呼ばれるとしておきます。ですから先ほどの表は、こんな風に書き換えられます。
Opportunist
Diplomat
Expert
Achiever
Individualist
Strategist
(なお、「Later action-logics」に関しては、INTEGRAL JAPAN並びにケン・ウィルバー勉強会を主催される鈴木規夫さんの手による日本語の文献をネット上から読むことができます。ご興味のある方はこちらよりINTEGRAL JAPANのサイトに飛んでいただき、「Activities」と題したところクリックしていただき、2006年の10月から12月のPDFファイルをご参照下さい。でもちょっと文体が難しいかもしれません。)
【インバスケットでの検証】
さあ、少しごちゃごちゃしてきた。話を先に進めるためには、「Aciever」よりも「Strategist」の方が2段階高い発達段階にある、ということだけを押さえて下さい。で、上記の本の著者ビル・トーバート氏が行った調査というのは、49人のMBA取得者に「インバスケット演習(2~3時間で膨大なビジネスメールを読ませ、意思決定、問題解決、管理能力などを見る演習のことです。)」を行わせたのです。ちなみに、私はヒューマン・アセスメント研修で、結構よくお付き合いさせていただく演習の1つでもあります。で、その結果は、「Strategist」の方が「Achiever」よりも、よいアウトプットを出すことが確認されたとのことです。具体的には「redefined problems in response to more of the in-basket items」との記述があることから、課題設定・抽出といった領域において、高い発達段階にある人々が高いパフォーマンスを示した、ということができるでしょう。
【その後の追跡調査】
さて、トーバート氏はこのうち17人について追跡調査を実施し、インタビューを試みたところ、以下の3つの領域において、顕著な違いが認められたということです。
・リーダーシップ
・上司との関係
・行動のイニシアティブ
この違いも全て書くと長くなってしまうので簡単にとどめると、「意見の対立が生じたときに、Achieverは自らの意見を押し付けようとしがちだが、Strategistは意見の相違を乗り越える新たなフレームを作り出す」といったような形で、発達段階の高い人々の方が「共創」を意識したリーダーシップを発揮している、と言ってよいのかもしれません。
【企業にとっての「発達」のリスク】
上記の調査結果を、「母数が少ない」との印象を持たれる方もいるかもしれません。では、仮に調査対象を拡大し十分な結論が得られれば、従業員の発達を高度な段階に移行すべく、人材開発を行うことが有用なのでしょうか?必ずしもそうとは言い切れません。というのも先ほどの調査が「Strategist」と「Achiever」であり、その中間に位置する「Individualist」の段階が抜けていることに留意して下さい。
「Individualist」の段階は、実はトーバート氏の著作を読んだ私のざっくりとして感覚は、「非生産的」な段階といったところです。なぜ、「非生産的」になってしまうかといえば、「decision paralysis」という用語が鋭く指摘するように、決断力が鈍ってしまうからです。なぜ、決断力が鈍ってしまうかといえば、多様な物の見方が見えすぎてしまうがために、一つに方向性を絞れなくなってしまうからです。
では、そんな非生産的な「Individualist」段階をすっ飛ばして、「Achiever」から「Strategist」に一足飛びに発達を促すことはできないのかと言えば、それは不可能です。ウィルバーが「完了」という言葉で示しているように、より高次の段階に進むためには、その前段階をクリアしていなければならず、前段階を「含んで超える」アプローチをとらないことには、発達することは適わないからです。したがって、仮にこの種の発達理論に準拠した人材開発を考えている企業があるとするならば、その企業は「発達したがゆえに非生産的になってしまった人々」に対するサポートを手厚くする必要があるでしょう。
【どうすれば「発達」を促すことができるのか】
上記のリスクも承知で、この種の試みを導入したい企業があったとします。では、どうすれば従業員の「発達」を促すことができるのでしょう?「Aciever」段階の従業員を集めて、「Individualistに発達するために」と題した1泊2日の集合研修を行えばよいのでしょうか?ナンセンスです。
ウィルバーは『万物の理論』において、個人的変容を促進する要素として、「完了、不調和、洞察、開始」の4つを挙げています。「完了」については、前節で書いたとおりです。ここでは「不調和」だけを取り上げておきましょう。ウィルバーは変容が起こりうるためには、「どんな出来事であれ、現在のレベルへのある種の深い不満足がなければならない。(引用)」としているように、「今の自分で十分にハッピー」という方には、「発達する」ということは、無関係であると言っても過言ではありません。また、ウィルバーは「深く混乱した不調和感がしつこく浮かんでくるためには、動揺し、悩み、不満を感じる必要がある(引用)」とまで言っています。企業という組織体の中で、不調和感を生じせしめるには、さしずめ超多忙なプロジェクトに突き落とすといったところでしょうか(笑)。こんなことをすれば、今度はメンタルヘルス面への心配が必要になってきてしまいます。
そこで、現実的にはタフそうなエリート候補のみに対して試練を与えることになるのでしょうが、それならば私がエントリーを書かなくとも、例えば下記の著作等で、実践例が示されています。
ただし、当然ながら上記の如くの著作は、発達段階理論のフレームとは無縁のところに創られたのであり、選抜エリート養成プログラムを発達段階理論のフレームからモニターするようにすれば、より実りのあるプログラムが実践できることでしょう。
【「エリートに選抜されていない私」はどうすればよいか?】
では、自分はエリートの幹部候補生には選抜されていないが、それでも上を目指したいという方はどうすればよいのでしょうか?これは一言でいえば、「気の持ちよう」といえます。仕事を自分を成長させるものと捉えるか、苦役と捉えるかは、人それぞれの「気の持ちよう」です。ではどのように気を持てばよいかといえば、それは、コービーの『7つの習慣』を読むことをお勧めします。
・・・「気の持ちよう」って結構適当な表現(笑)。今日はたくさん書いたので最後は疲れてしまいました。実は最後の部分が最も重要だと思っているので、それはまた時間のあるときにでも。
Posted by Ken Kodama at 2007年01月10日 11:40