昨日、某資格試験予備校で財務会計の講義をしていたのですが、ファイナンシャルデリバティブの「オプション」の説明をするとき、興味を持っていただけるかと思い、ライブドアの転換社債とリーマンの株の空売りの話を簡単にしたのです。すると、講義後に受けた質問の内、二人の方の質問が、「空売りの仕組みがよくわからない」というものでした。私も最初に空売りに接したときに感じた、同様の居心地の悪さのようなものを、思い出した次第です。「空売り」というのは、なんとなく概念でわかっても、証券会社での勤務経験がないと、裏の仕組みがしっくりと分からないと思われるので、本日は「空売りの仕組み」をすっきり納得していただくためのエントリーを書こうと思います。
【①株・債券の貸し手が必要】
当たり前のことですが、自分が持っている株を売ることと、空売りは全くことなります。空売りは、「売り」から入って後で買い戻す投資手法です。しかし、「売り」から入る場合でも、買ってくれる相手側は、その売り手が「空売り」なのか、手持ち株の売却なのかは関係ありませんから、当然、株なら株券、債券ならその券面の引渡しを要求します。空売りの場合は、その手持ちの券面がないため、空売りを可能にするためには、まず、券面を貸してくれる貸し手が必要になります。
【②空売りをお手伝いするお人よしの貸し手ってどういう人???】
ここで気になるのが、券面を貸してくれる人の動機です。株を貸すことのできる人というのは、現在株を保有している人でもあります。株を貸せば、空売りに使われ、その売り圧力が強ければ、株価は値下がりしてしまいます。株を貸すメリットなどあるのでしょうか?
株を貸すメリットは、貸す代償として「品貸料」を得られる点です。長期保有を前提として株を所有している投資家であれば、自分の株は長期的には上昇すると信じており、デイトレーダーのような人が株を借りて売却しても、長期的には自分の思惑通りに株価は上昇すると信じています。そういう信念があれば、将来の株の値上がり益に加えて、品貸料を得られれば、嬉しくないはずがありません。
また、株の貸し手には、「裁定取引」なる手法のトレーダーも存在します。こういう人たちは、日経平均やTOPIXなどの先物と現物株の間に生じる「ゆがみ」から儲けを得ようとする人々で、そのトレーディングのために、かなり多くの現物株を有することがしばしばあります。こうした人々は、別に持っている株が将来上がろうが下がろうが、自分のもうけには関係ないわけですから、長期的な保有者に比べて、より積極的に株を貸し出すことが可能となります。
また、レアケースとして、株を貸すと空売りされるという基本を知らないために、ほいほいと株を貸し出してしまう方というのもまれに存在します。最近話題のあの方は、このケースではないと信じたいのですが・・・
【③空売りをした人の手元に残るものはなに?】
昨日、受けた質問の一つが、上記の質問です。この質問の本質は実は中々深遠です。細かく検討してみましょう。
まず、株券などの券面ですが、これは借りてからすぐ売るのですから、当然手元に残りません。しかし、株を売るのですから、その売却代金が手元に入ってきます。もちろん、この売却代金は「証拠金」として証券会社に預けておくことが求められますが、基本的には売った人の手元に残ると考えていいでしょう。
では、お金だけが残るのかといえばそうではなく、ショートポジションなるものが手元に残ると考える必要があります。株を買った場合、持っている株が上昇すれば益が出て、持っている株が下落すれば損が出ます。これは、すなわち、株保有によりロングポジションを形成しているからです。空売りした人は、たしかに手元には株券はありませんが、マイナスの券面、すなわちショートポジションが残ることを忘れてはなりません。では、そもそもその「ポジション」とは何なのかということですが、将来損益を生じさせうるリスクの大きさ、というとらえかたをしておけばよいと思います。
【④空売りをすると利息を払わねばならない?】
これは私が証券会社で債券のトレーディングの損益管理の仕事をしていたときに知って、そのときは少なからず驚いた記憶がありますが、空売りしているときに利払いがあると、空売りしている人は利息を払う必要があるのです。国債を借りてきて空売りしたとしましょう。すると、そのままでは、国から払われる利息は、新たなる国債の取得者のもとに払われるのみで、空売りのために国債を貸し出した人の手元には利息が入ってこなくなります。したがって、空売りをした人は、国債を貸してくれた人に利払いを行う必要が出てくるのです。こうした事象が発生するのも、空売りによりショートポジションが形成されるからであり、債券・株券を所有しているのと反対のことが起こると考えておけばよいでしょう。ですから、受取利息の経過利息を日々計上していたとすれば、ショートポジションをとっていれば、マイナスの経過利息を計上する必要が出てくるのです。
今週は更新が滞りがちで申し訳ありません。また、通常は日経新聞を主ソースにしたレビューとなっておりますが、世間のライブドアに対する関心から高まったMSCBへの関心を受けて、本日は日経紙面とは関係なくMSCBについて、私の考えるところを述べて、この問題に一区切りつけようと思います。(本日のエントリーが難解に感じられたらすみません。翌週より、元のスタンスに戻る予定です。)
先日の私のエントリーにおいては、MSCBをさんざんにこきおりしたわけですが、MSCBにいち早く注目されてきた会計士の磯崎哲也氏の2月22日の「MSCBは必ず株価の下げ要因になるのか?」というエントリーに、非常に興味深い記述がありましたので、以下に引用いたします。
(引用始)
・MSCBは、引き受け手の行動次第で毒にも薬にもなる「諸刃の剣」であるが、必ずしも「下げ要因」とは限らない。「いい」MSCBの使い方というのもありうる。
・「いいか悪いか」の判断には、法定の開示事項だけでなく、発行会社と引受証券会社の間で、その他どのような合意(契約)が行われているかが極めて重要。
・しかしながら、この両者の合意の詳細が開示されることが少ないことが最大の問題点。(投資家は判断しようがない。)
(引用終)
昨日は、私は「個人投資家を食い物にするMSCBの発行を手伝う投資銀行には同義的責任がある」という、かなり偏った発言をしましたが、実は、MSCBが両刃の剣であるというポイントには大いに同感しています。磯崎氏はMSCBが良いMSCBであるためには、「発行会社と引受証券会社の間で、その他どのような合意」がなされたかどうかが重要であるとしていますが、もう少しベーシックな部分を考えると、良いMSCBであるための条件としては、以下の要素を付け加えるべきでしょう。
(1)発行体が純粋な負債で資金調達できないこと
既存株主の立場から考えれば、負債での資金調達が可能であるならば、純粋な負債での資金調達の方が望ましいことはいうまでもありません。なぜならば、純粋な負債であれば①希薄化の心配もなく、②利払いに伴う節税効果による企業価値の向上の恩恵に与ることも可能であるからです。(ただし、もちろん「ROA>負債利子」という財務レバレッジの働く条件が整っていることが前提となることはいうまでもありません。)したがって、日立のような会社がCBでの資金調達をアナウンスした場合、私は首をかしげざるを得ません。利払いや元本返済の負担が厳しいという条件のもとで、はじめて既存株主はMSCBの発行に同意せざるを得ないでしょう。
(2)調達した資金を使って企業価値を向上させ得る明確なビジネスプランが存在すること
MSCBでの資金調達の目的が返済期限の迫る負債の借り換えのための資金に過ぎない場合、それは間違いなく良いMSCBではありません。その場合、MSCBは末期状態の企業へのモルヒネにしかなりません。調達した資金を使用した明確な企業価値向上のためのプランが存在し、それを実行する経営陣の意気込みがないことには、株式の本質的な価値が上昇するはずはありえません。ビジネスプランはお金に命を吹き込む役割を果たすのです。二度に渡り巨額のMSCBを発行しながら株価が回復したいすずは、同社サイトにて明確な中期経営計画を投資家に対してコミュニケートしています。これがMSCBを良いMSCBたらしめた原因ではないかと私は考えます。
(3)引き受け証券会社のスタンス
上記(1)(2)の条件が整った上で、磯崎氏の言う「引き受け証券会社との合意」がはじめて、意味を持つと私は思います。いくら、「無茶な空売りはしません」と引受証券会社が言っていたとしても、そもそも(1)、(2)の条件が整わないことには、株式の本質的価値の向上はありえません。
つまり、(1)、(2)、(3)を合わせて考えて見ると、MSCBが既存株主にとって良いMSCBでありえるというのは、「発行体が現在財務的に苦境にあるが、明確な再生プランを持ち、引き受け証券会社が、その再生アドバイザー的な役割を務める」という極めてレアな条件が整うとき、はじめてMSCBは良いMSCBたりえるといえるのだと私は思います。このような条件が整うときに、上方修正条件のついたMSCBで資金調達を行えば、①通常の増資に比べ希薄化が緩和され、②増資に伴う需給の悪化を避けるというメリットを享受することが可能となるのです。
これらの条件、特に(3)が欠けるとどうなるかといえば、MSCBのホルダーによる空売りが始まるのです。MSCBには原株のコールオプションが内蔵されており、MSCBのホルダーがこのコールオプションのコストを回収するためには、上方であれ、下方であれ、株価が大きく動く必要があります。(つまりMSCBのホルダーは潜在的にロングストラングルのストラテジーを採っているといえるでしょう。)株価を上方に動かそうと原株を購入すれば、意に反して株価が下落したとき、大きな損失を被ることとなります。しかし、株価を下方に動かそうと空売りを仕掛けた場合は、結果としてプットオプションが合成されるので、意に反して株価が上昇しても、損失は限定されます。
大半のMSCBの案件は(1)~(3)の条件が整っていない発行体によるもので、そうした発行体のMSCBを引き受けた証券会社・ヘッジファンドが儲けを得るためには、現物株をショートせざるを得ないのです。こうした理由から、磯崎氏の言う「良いMSCB」の存在は認めつつも、私はモラルなきMSCBの引受証券会社の、既存株主である個人投資家に対する道義的責任を問うわけです。
ちなみに、ライブドアの場合、完全に欠けているのは(2)、すなわち明確なビジネスプランであるといえるでしょう。CFOの日記を見ると、企業価値の向上を念仏のように唱えていますが、明確な数値は一向に明らかにされません。こうした場合、リーマンがオプションコストを回収するためには、現物をショートせざるを得ないのは必然といえるでしょう。
本日の日経新聞はライブドア一色でした。一面の買収防衛策に関する記事もライブドアに端を発したものですし、セブンイレブン株譲渡の報道も、その背後の動機の「資本のねじれの解消」は、やはりフジテレビとニッポン放送の問題につながります。これほどライブドア一色の日に、この問題に触れぬわけいかないと思い、本日はライブドアネタにしようと思いますが、矛先は今回の騒ぎの黒子であるリーマンブラザーズです。
私は、財務内容の悪い企業に対してゼロクーポンCBの発行をもちかける、投資銀行の営業手法に対して以前から大きな疑問を抱いていました。「ゼロクーポン」CBなのですから、CBの購入者には利息収入があるわけではなく、そこからゲインを得ようとするのであれば、ゼロクーポンCBに内蔵されたコールオプションを活用するほかありません。財務内容が悪い企業であれば、当然株価の上昇は期待できず、したがってCBホルダーは、原証券の空売りポジションとCBに内蔵されたコールオプションを合成して、プットオプションを複製する戦略に出ることは目に見えています。(八重洲校で講義をお聞きいただいている方には、7回目に簡単にこの仕組みをお話する予定です。)
その結果痛手を被るのは、またもや、無知な個人投資家です。金融商品販売法という手ごわい法律により、もう証券会社は個人投資家を直接だまして旨味をしゃぶりつくすことはできなくなりました。しかし、無知な個人投資家からしぼりとろうとするその商魂は途絶えていなかったのです。だます相手はCBの発行体に代わりましたが、発行体のPLは少しも痛手を負うことなく、むしろ「ゼロクーポン」なのですから経常利益の増益要因ともなります。財務内容の厳しい企業にとってはモルヒネのようなものです。しかし、マネーゲームはゼロサムゲームなのですから、どこかで誰かが泣いているはずで、それが希薄化と空売りでガタガタになった個人投資家の持ち株なのです。これが、私がゼロクーポンCBを「悪魔に魂を売り渡す資金調達」と呼ぶ所以です。
ライブドア副社長の日記を読むと、なるほど、リーマンはこのような営業トークをしたのか、ということが手に取るように分かります。そして、同じ方の「風説の流布」呼ばわりされてしまった2月18日付けのエントリーを読むと、なんとも痛々しい限りですが、しかし本当に痛い思いをするのはやはり個人投資家である株主なのです。
投資銀行の直接のカスタマーは法人であるわけですが、その証券市場での重要な役割を考えると、結果的に個人投資家を粗末にするようなビジネスはすべきではないし、そのようなことをしていては、長期的には自らの首を絞めかねないといえます。今回の問題が、企業の買収防衛に対する法整備の道筋を開いたことは大いに評価すべきですが、保身を狙う経営者の便乗陳情という色彩が多分に強いと思います。その背後にあるMSCBに対しても、なんらかの規制があってしかるべきではないかと私は思うのですが・・・
キヤノンと富士ゼロックスはプラスチックの部品を成型するために使う金型の内製化を本格化するとの報道です。この問題に関しては、2月2日に以下の関連エントリーをアップしましたので、ご参照下さい。
基本的に、ごく最近の製造業のトレンドは内製化にあるわけですが、そもそも、原点に立ち返って、なぜ金型製作は大手メーカーから外出しされたのか、という点について考えてみたいと思います。
【なぜ金型は大手メーカから外出しされたのか】
まず、第一の動機は金型製作費用の変動費化にあるといえるでしょう。基本的には、金型作成費用は大量生産を開始する時点のみ発生します。一年中を通して業務が必要であるわけではないので、そのための人員をプロパーで抱えると無駄な固定費が発生してしまうというのが、金型製作が大手メーカーからスピンアウトしていった経緯であると考えられます。
第二の動機、というよりこちらの方がより重要かもしれませんが、金型製作に関わる技術はメーカーにとってのコアな技術と考えられていなかったという点です。もちろん金型製作には高度な技術は必要ですが、例えばキャノンであれば、キャノンのコアな技術は「インクジェットプリンター」の原理に関わるものであったりして、それをスタンピングする技術を有していても、技術面でのシナジーは得られないと考えられていたのでしょう。
【金型は大手メーカーが内製化すべき工程なのか?】
金型を内製化するということは、固定費をとるということで、オペレーティングレバレッジの追求にあるわけですから、大手メーカーにとってはリスクテーキングといえます。あえて、この分野にリスクテーキングする意義はあるのでしょうか?
今回の報道の富士ゼロックスは、いわゆる変調をきたしている「デジタル家電」のメーカーではありませんが、メーカーが予期し得ないほどの価格下落にさらされている市場においては、費用構造の大部分にコントロールが及ぶようにしておく必要があります。外注の場合は単価の引き下げは価格交渉以外にありえませんが、内製化すれば販売価格の下落を受け、速やかにコスト削減をリードしていくことが可能となります。
また、新聞にも指摘されていますが、内製化すれば同一企業内のオペレーションとなるわけですから、製品ライフサイクルの短期化に対応してより機動的に商品開発・生産を実施することが可能となります。
したがって、製品ライフサイクルが短期化し、販売市場の価格の不透明という外部環境の変化があったわけですから、金型内製化という方向転換は意味のある行動ということができるでしょう。
【中小金型メーカーの取るべき道】
こうした内製化の大きな流れの中で、中小金型メーカーは、経営上に不安を抱えているのであれば、大手メーカーへのより有利な条件での身売りを考えることも一つの方向性です。買い手側に株式売却価格の主導権を握られてしまわぬよう、中小企業を対象としてM&A業者に依頼をもちかけるのも一つの選択肢でしょう。
しかし、それでも、やはり独自の経営にこだわるのであれば、さきほど述べた①機動的な開発サイクルと②コスト削減の迅速化への、なんらかの対策が必要となります。前者については、大手メーカーとのデータ連携を推進したり、後者については、同業他社との連携により規模の経済の確保、といった視点を経営にとりいれていく必要があるといえるでしょう。
西友の業績が依然として不調であるとの報道です。その原因として、ウォルマート流のEDLP(Every Day Low Price)、すなわち破格の安値の目玉商品で集客するのではなく、コンスタントに安値の商品を提供することによりリピーターを増加させていこうとする手法のことですが、これが日本では効果を挙げていないとの指摘が本日の日経新聞では書かれています。なぜEDLPは日本では根付かないのでしょうか?私なりに考えてみましたが、異なる見解・ご指摘等ありましたら、コメントに記載いただければ幸いです。最近、大変ありがたいことに、当サイトへのリピーター数のカウントが着実に増加しています。徐々にインタラクティブなサイトになれば、嬉しい限りです。
①働く主婦 VS 専業主婦
第一に考えられるのは、アメリカでは、結婚後も仕事を続けられる女性が多いのに対し、日本では、依然として専業主婦となる方の人数が多い点です。専門のお仕事をお持ちであれば、当然、買い物に割くことのできる時間も限定され、複数店舗の折込チラシの隅々まで読む時間はなく、したがって、EDLPは忙しい主婦にとって、大変重宝されます。
対して、専業主婦であれば、チラシをくまなく読む時間も豊富にあり、また、チラシを読んで目玉商品を発掘することは、家計の支出を抑えるという意味である種の「生きがい」となっていたり、また、そこまで大げさでなくても、目玉商品発掘を楽しんでいる主婦も多いはずです。
EDLPはこのように専業主婦の生きがい・楽しみを奪いかねない手法なので、西友においても、共働きの比較的多い都市部とそれ以外で、EDLPを採用するか否かを決めていけば、多少効果が上がるのではないかと思われます。
②買回品とEDLPの親和性
購買頻度の高い食料品などをマーケティング用語で最寄品、それほど購買頻度が高くない衣料などを買回品と呼びますが、新聞報道にあるように、買回品にEDLPを導入すること自体、大きな疑問符をつけざるを得ません。買回品は読んで字の如く、買う際において複数の店舗を歩き回って購買を決定するという努力をいとわない商品のことです。こうした商品は、価格を多少高めに設定してでも、差別化を図り、回転率よりも粗利率で勝負すべき商品です。アメリカのウォルマートでは、買回品にEDLPを適用することによる成功体験があるということなのでしょうか?もし、そのような成功体験がアメリカであるとするのなら、その原因を憶測すれば、貧富の格差が大きいというところに行き着くのでしょうか?この辺りについてご存知の片は、是非ご教授いただけると幸いです。
JTが年功型の給与を廃止し、職務給制度を導入するとの報道です。まず、この「職務給」の簡単な説明ですが、「人ありき」ではなく「仕事ありき」で給与の水準を決める仕組みです。経理の部長職なら○○万円、予算担当の課長なら○○万円、といった具合です。お馴染みの「成果給」も「職務給」も、日本においては年功序列型により肥大化した総人件費を抑制しようとの目的で導入された点は共通していますが、「成果給」は目標達成度合いにより毎年給与が変動するため、よりインセンティブを引き出すという目的においては優れていますが、富士通の暴露本等に代表されるよう、昨年は成果主義の問題点がクローズアップされたため、JTは「成果給」ではなく「職務給」という選択に至ったかもしれません。
私の個人的な体験ですが、職務給に関しては、大変深く接してきました。というのも、本日の新聞にも記載があったとおり、職務給はアメリカで一般的な給与体系であり、外資系企業の日本法人の大半が、やはり職務給を採用しているからです。個人的体験に根付いたJTへのアドバイスをするとすれば、それは以下の2つとなります。
①人材マーケットの相場を受け入れること
職務給は仕事で給与が決まるのであり、特に経理・財務・人事・システムといった、どの会社にも汎用的な職務であれば、それぞれの給与水準には人材マーケットでの相場というものが存在します。例えば、私がかつて働いた金融業界等は特に顕著な例で、経理・財務担当職も職務が細分化されており、トレーディング業務の収益を管理する「プロダクト・コントローラー」なる職務も、プレーンな債券担当であれば6~800万円、デリバティブが加わると8~1100万円、クレデリができれば1000万円~1200万円といった具合です。(これはあくまでもイメージを喚起するための「例」であることをご承知下さい)こうしたマーケットを無視した水準設定を行うと、職務給制度は必ず破綻を招きます。給与水準がマーケットより低ければ、優秀な人材の流出を招き、逆に高ければ、てこでも異動を拒もうとする無能社員の温床となりかねません。したがって、ここからもう一段階進めて考察すれば、職務給制度は人材の流動化を促すものであり、それに対する備えをあらかじめ行っておく必要があるということがいえるでしょう。
②社内での公平性の維持の仕組構築を考えること
これも、実体験に基づくものですが、昨日まで秘書であった方が、ある日突然企画担当のクリエイティブな職務についている、という光景もたまにあります。そして、ひそひそと裏でささやかれるのは、「あいつ、この異動で年収が200万円上がったらしい・・・」といったような生々しいものです。もちろん、抜擢を否定するつもりは全くありませんが、職務給制度は仕事を変えない限り給与は変わらないわけですから、その職務の異動において、公平性を担保するような仕組みを社内に構築する必要があります。たまたま社内での仕事上の連携が深かったために抜擢が行われたり、あるいは、男女の関係があったための異動であったとささやかれたり、はたまた、男同士のよく分からない関係が異動の背後にあったり・・・等ということがあれば、他の従業員の不満は爆発して、会社運営が成り立たなくなる危機すらあります。
公平性を担保する代表的な仕組みとしては、「社内公募制」と呼ばれるものがあり、イントラネットに社内の空席のポジションを列挙し、従業員自らが応募できる体制をとっておくものです。
本日は新聞休刊日でしたが、スコアリングモデルを駆使した中小企業向け融資が急増しているとの報道がNIKKEI NETにありました。このスコアリングモデルなるものは何なのか、NIKKEI NETの説明を以下に引用したいと思います。
(引用始)
『大企業の資金需要が伸び悩むなか、各行は比較的利ザヤの高い中小向け融資に力を入れており、かねて取引関係を深めてきた地域金融機関との競争が激しさを増している。
大手銀行は財務諸表などをもとに企業を自動的に評価し、融資の可否や金利を決める「スコアリングモデル」を使った商品を相次ぎ投入。担保評価など事務面でのコストが減らせることに加え、貸出金利が2、3%台と大企業向けより高いこともあり、取り扱いを強化している。』
(引用終)
上記の説明を要約すれば、スコアリングモデルとは中小企業向け融資をローコストオペレーションのもとに実現する仕組みといえるでしょう。そして、これは我々がリレーションシップバンキングという言葉から連想する融資のスタイルとは対極にあり、同様の問題意識を持った方のサイトを発見しましたので、ご参照下さい。
この仕組みを活用した融資を銀行が行う際に、この定量的なモデルへの依存度がどの程度で、定性的な分析はどの程度行われるのか、その実態を私は知りません。しかし、「比較的利ザヤの高い」マーケットを求めて「競争が激化している」との記述を見る限り、危険な香りがすることは否めません。
以前、「自らカネを必要としない企業にのみ貸付を行う」という中小企業向け融資に関する磯崎氏のブログ記事をご紹介しましたが、この新聞報道の言うスコアリングモデル融資の純増が、競争激化の結果、カネを必要としない企業に回っているとすれば、銀行の信用リスク管理に疑問符をつけざるを得ません。
テレビ局を買い占める、というのは極端な例としても、必要以上のカネを持てば人の心は変わります。そして、多くの中小企業の所有と経営は一致しており、オーナー社長が変われば、ガバナンスなき中小企業の行動も変わります。こうした融資後の企業行動の変化というのは、このスコアリングモデルに織り込まれているのでしょうか?また、第二の不良債権処理の波が訪れないことを、ただひたすら祈るのみです。
カルチュア・コンビニエンス・クラブが、のれん代を一括償却することにより、新たに80億円の損失を計上し、47億円の赤字に転落するとの報道が、本日の日経新聞朝刊の企業財務欄に小さく掲載されていました。
恥ずかしながら、私は若かりし頃、「のれん代」というものが一体なんであるのか、よく分かりませんでした。会計の初学者の方は恐らくぴんとこない論点のはずです。本日は原点に立ち返って、のれん代の意味を分かりやすく説明できればと思います。
【仕訳の貸借を一致させるためのもの】
「のれん代の償却」は、基本的には合併・買収を積極的に行う企業特有の論点です。
A企業がB企業の株式を100%購入して買収を行うと、A企業の貸借対照表にはB企業の貸借対照表の資産・負債・資本等が合算して表示されることとなります。A企業はB企業の株式取得のために現金を支払って、B企業の資産・負債・資本等を手に入れるわけですから、仕訳のイメージは以下のようになります。
(借)資産 XXX (貸)負債 XXX
資本 XXX
現金 XXX
しかし、株式の時価総額というものは、みなさんもご存知の通り、貸借対照表の資産の金額よりも大きいことがほとんどです。したがって、上記の仕訳では貸方合計の方が借方合計の数値よりも金額が大きくなってしまい、仕訳の貸借が合わなくなってしまいますが、これは簿記の世界では許されません。したがって、仕訳の貸借が合うように挿入される科目が「のれん代」で、上記の仕分けは以下のように修正されます。
(借)資産 XXX (貸)負債 XXX
のれん代 XXX 資本 XXX
現金 XXX
したがって、単純に考えれば、のれん代とは企業が合併・買収を行ったときに、仕訳の貸借合計を一致させるための項目と考えることができます。
【なぜ「のれん代」と呼ばれるのか】
では、仕訳の貸借を一致させるだけの項目に、なぜ「のれん代」などという情緒ある名称がつけられているのでしょうか?
さきほど見たように、「のれん代」が挿入されるそもそもの理由は、株式の時価総額が貸借対照表の資産の金額より大きいためです。では、なぜ時価総額の方が貸借対照表価額より大きくなるかと言えば、その主たる原因がブランドパワーにあると考えているのです。「のれん」に書かれる店の名前はすなわちブランドであり、これが「のれん代」と称される理由なのです。
実際のところは、株式の時価総額が貸借対照表の金額より大きくなる原因は、必ずしもブランドパワーのみではなく、優秀な人材が豊富であったり、先進的な技術力のおかげであったりするのですが、それらを代表して「のれん代」と呼んでしまっていると考えて下さい。
【買収しなくたってブランドはあるのではないか?】
センスのよい方は、ここで一つ疑問が湧くはずです。「ブランドパワーは買収によらずとも、全て自前でやってきた企業にも存在するのではないか?」という疑問ですが、それは極めて正しいです。しかし、買収を行っていなければ「のれん代」は基本的には計上されません。なぜ計上しないかといえば、客観的でなくなってしまう恐れがあるからです。
買収の場合は株式取得のために支払ったお金があるわけですから、客観的に「のれん代」を計上することが可能です。対して、自前でブランドを築いた企業は客観的なブランドの評価額が存在せず、野放しにすると、自社の財務状態が健全であるかの如く巨額のブランドの評価額を計上してしまう恐れがあるため、自前のブランドの計上は禁止されています。自前ブランドのことは会計用語で「自己創設のれん」と呼ばれ、その計上は禁止されています。
【のれん代の償却は一括ですべきか数年かけて行うべきか】
この「のれん代」は固定資産等と同様に費用化されます。それは、このカルチュア・コンビニエンス・クラブのように一括で償却するのがよいのか、複数年かけて償却するのがよいのかどちらでしょうか?
損益計算書をより実態に即して見たいのであれば、複数年かけてのれん代を償却すべきです。なぜなら、ブランドパワーは買収した年だけに現れるわけではなく、複数年にわたってじわりじわりと効果をもたらすからです。
しかし、貸借対照表で財政状態をきちんと把握したいのであれば、「のれん代」のような実態のないものは、貸借対照表から消えてしまった方がよいということもできます。したがって、一括償却するか、複数年で償却するかは、一長一短といえます。
しかし、最近の流行としては、一括償却することが多いようです。その理由の一つは、投資家が成熟してきて、赤字決算であってもそれが本業の不調に起因しないものであれば、理解が得られるようになったことにあるといえます。また二番目の理由としては、一括償却で巨額の赤字を計上すれば、翌年にV字回復を演出できるというメリットもあることを忘れてはならないでしょう。
ネットコミュニティーでここまで話題になっているものを当サイトで取り上げるのもいかがなものかと思いましたが、興味深いテーマではあるため取り上げることとしました。
当サイトでは、ライブドアの資金調達手段である、800億円の転換社債について、株式投資初心者の方の目線で考えてみたいと思います。以下にライブドアの開示文書のリンクを掲げておきます。
2010年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債発行に関するお知らせ
【なぜ転換社債で資金調達するのか?】
資金調達の手段には、転換社債でなくとも、普通社債でも株式発行もありえることは、皆様ご存知の通りです。
まず、なぜ普通社債でなく転換社債であるかという点ですが、これは利払いの負担が軽くなるからです。開示文書の最後のページに「本社債には利息を付さない」とあるため、毎年の利払いによるキャッシュ・アウトは一切発生しません。もし、普通社債であれば、仮に利率が1%だとしても年間8億円の利払いが発生します。
では、なぜ転換社債の利率が普通社債より低いかといえば、それは、転換社債には、「一定の値段で株式と交換できる」というおまけがついているからです。
では、なぜ株式の発行でなく転換社債を使用するかといえば、これはなかなか難しいです。一般的に「増資」をアナウンスすると、株数増加による希薄化を懸念して株価が下落することが多いので、それを避けていると考えられますが、転換社債の発行においても「潜在的な」希薄化は当然あるわけで、希薄化が「潜在的」であれば、マーケットはすぐには気がつかないと、思っているのかもしれません。
【転換社債で資金調達した企業の株価はどうなるのか】
では、転換社債で資金調達をした企業の、その後の株価はどうなるでしょうか?転換社債についているおまけである「一定の価格で株に交換できる権利」ですが、少し考えると「株に交換できる権利」なのだから、株価が上昇しないと儲からないような気がしますが、実は、空売りをしても損をしないような「空売り保険」としても機能する側面もあります。(この詳しい仕組みの解説は私の発行する有料メルマガのコンテンツになりますので、割愛させていただきます。)
したがって、転換社債が株式投資のプロの手に渡れば、株価が上昇しても下落しても儲かるし、儲かるために大きな空売りを仕掛けられる実例も多く存在します。
【ライブドアの転換社債はただの転換社債ではない】
開示文書2ページ目の(3)の③に「転換価格の修正」とありますが、これは株価の下落とともに転換価格が切り下がっていく、最近悪名の高いMSCB(Moving Strike Convertible Bond)という奴です。感覚的にもお分かりいただけるかもしれませんが、株価が下落した場合でもMSCBの持ち主は空売りとからめることにより、より儲け易くなるということです。MSCBに関するネット上の資料では、会計士の磯崎氏の運営するisologueというブログに非常に詳しく書かれていますので、ご参照下さい。(今回のライブドアに関しては、MSCBではなく、ニッポン放送株取得の法的妥当性について論じていらっしゃいます。)
ボーダフォンの社長が4ヶ月で交代してしまったという報道です。しかし、社長に就任したのは昨年12月であるわけですから、交代の意思決定は就任後わずか2ヶ月で行われたこととなります。
本日の日経紙面では、社長交代のきっかけとなった販売面での不調の原因を、いくつか分析しています。その中で私の注意をひいたのが、「世界統一端末」戦略です。世界中で同じデザインの端末を販売すれば、当然のごとく規模の経済が働き、コストメリットが得られます。私が間近に見た世界統一戦略の成功例が、かつての古巣のアパレルのギャップです。ギャップにおいては、製品デザインはおろか、テレビCMですら全世界統一で、大きなコストメリットを享受しています。ギャップが成功し得たのは、比較的シンプルなデザインのアイテムに集中することにより、国ごとの嗜好の差異の影響を被らなかったためですが、日本においては携帯端末が一種の自己主張のアイテムになっているため、世界統一戦略が功を奏さなかったといえるでしょう。
ただし、これらの販売面での不調は、「2ヶ月」という短期間での社長交代の真因にはなりえません。私は外資系企業の日本法人での勤務経験が長かったため、こうしたエグゼクティブクラスの日本人が短期で会社を去っていくのは、数回目前にしたことがあります。今回のボーダフォンの場合でも、またそれ以外の一般的な場合でも、日本人エグゼクティブが短期間で職を離れる第一の原因は、やはりコミュニケーション能力にあります。非常にシンプルなケースで言えば、単に英語が話せないということが原因で離職されてしまう方もしばしばいます。
ただし、最近の外資系日本法人の一つの流行として、英語でコミュニケーションがこなせて、かつ専門性がある人材を雇用すると、人件費が高くつくため、社内に同時通訳者を置いて、英語ができない有能な人材を雇用する企業も増加していることは確かです。しかし、同時通訳がいるからといって、コミュニケーションの問題は解決済とはならないのです。
今回のボーダフォンを例をとれば、以下は私の完全な憶測ですが、それほど実態とかけ離れていないと思います。まず、本社が、日本法人の販売が計画値に達していないことを指摘して、プレッシャーをかけてきます。しかし、日本法人の現場の幹部クラスは、それが本社の戦略に起因するとの思いから、津田社長に対して本社への説得を要請します。津田社長はインテリジェントなジェントルマンですから、本社の言うこともよく分かるし、現場の日本人幹部の言うことも分かるし・・・で、調整不能に陥ってしまいます。
こうした状況において、リーダーにとって大切なのは、コミュニケーションの前提として、自己の主張をしっかり持つということです。少し極端に言えば、会社が苦境にあるときは、みんなの言い分をよく理解する頭のいい社長よりも、多少バカでも強い信念を持った社長の方が、会社を苦境から救い出すことが多いものです。
『端末・サービスの開発は自分が引き続き経営責任を持つ』という津田氏の発言も、なんだかムシのいい話に聞こえてしまします。
本日は直接的に関連のある日経新聞記事を受けてのエントリーではないのですが、インスパイアされたのは11ページの「電力線ネット」の記事です。
昨年12月21日付けで、「電線ネット」というタイトルでエントリーを書かせていただきました。これは、その日の日経新聞の1面の大見出しに、この「電線ネット」なる言葉が踊っていたことを受けてのエントリーですが、ここで私が着目したのは、「電線ネット」という言葉そのものです。この「電線ネット」なる用語を、12月21日時点でグーグル検索したところ、519件のヒットがあったものの、トップに表示されたものは「・・・日立電線、ネット・タイム、・・・」と、話題と無関連のものであったことから、同日時点においては、ネット・コミュニティーにおいて、「電線ネット」なる用語は使用されていなかったことが確認できます。
ところが、本日、同キーワードをグーグル検索すると、約3,460件と表示され、わずか1ヶ月強の期間において、同キーワードを含むページが3千近くネット上に生まれたことになり、「紙のメディア→ネット」への影響力の強さというものをまざまざと見せつけれらた感がします。「紙のメディア」の強大なパワーの源泉は、やはり①圧倒的なブランド・信頼度によるところが大きいと思われますが、②「電車通勤」という首都圏在住者のライフスタイルに支えられている面も否定できません。ただし、後者については、今後定額パケット料の携帯端末の普及や、携帯端末からのテレビ放送受信などにより、携帯端末との競争激化から徐々に力が弱まっていくものと思われます。
当サイトでも、当初はトラフィックを集める上で意識的に実践していましたが、圧倒的な紙のメディアのパワーを利用したSEO対策というのは、サイト集客にとって実に効果的です。ウェブサイトへの集客でお悩みの方は、想定来客の読むであろう紙媒体を意識したSEO対策を行うことが、費用対効果の面から考えて最も有効であろうと思われます。そして、その際のツールとして有効に機能するのがブログであることは、いうまでもありません。
ひとつ、日経新聞に対して苦言を呈するとすれば、こうした用語の選択に細心の注意を払っていただきたいという点です。本日の11ページでは、「電線ネット」ではなく「電力線ネット」という言葉に戻っていますが、では、なぜ昨年末に「電線ネット」なる言葉が大見出しで踊ったのか理解できません。それが、若手の編集者による、新語を世に出したいという自己顕示欲に基づいたものであったとしたならば、そうした小さな情報操作の意図の積み重ねは、紙のメディアのブランドパワーの低下に自ら拍車をかけるものとなってしまうことでしょう。
上場企業の自社株買いと配当による株主への配分が2004年度に6兆円を超えるとの報道です。どちらも、株主への利益の還元という点では共通していますが、やはり異なる点もあります。以下は、私が自分の頭の中から演繹した自社株買いと配当の違いで、ファイナンスの教科書等で確認していないので、理論的におかしな点があれば、ご指導いただけると幸いです。
①全ての株主 VS 特定の株主
配当は全ての株主に均等額が配分されますが、自社株買いでは、当然のことながら、株を手放した株主にのみ現金がいきわたることとなります。したがって、場合によっては自社株買いにより既存株主が不利益を被る可能性も否定できません。
自社株買いにより、既存株主は株数減少により確実に一株あたり利益上昇の恩恵を受けますが、一株当たり純資産については、それが上昇するか下落するかはPBRの水準に依存します。簡単な数値例については、私のメールマガジン10月号にて展開しましたので、よろしければご覧下さい。
②ただ現金が出ていくだけ VS 自社株が手元に入ってくる
配当では現金の流出があるのみですが、自社株買いでは自社の株とはいえ、株券が手元に入ってきます。そして、この自社株は企業買収時に株式交換として活用することが可能です。
理論的に見れば、現金配当した後に、時価発行増資して、得られたキャッシュで買収することも、自社株買いと株式交換を組み合わせた買収と同じという人もいるかもしれません。しかし、これは行動ファイナンスの領域かもしれませんが、「自社株買いは & 株式交換による買収」というのは良いイメージにくるまれていますが、ひとたび「増資」というと希薄化を懸念する方も多く、それが株価に悪影響を与える可能性も否定できません。
③不可逆的 VS 機動的
「不可逆的」という言葉は、(いつものこととはいえ)言いすぎかもしれませんが、一度増配すると、その後減配するというのは、経営陣にとって中々難しい決断となります。対して、自社株買いは余裕のあるときだけ行って、苦しいときは容易にストップできるため、より機動的に株主還元を行う手段と言えるでしょう。
ドコモが第三世代の携帯端末を値下げするとの報道が、本日の新聞紙面を大きく割いて取り上げられていました。本日はこれに関連して、キャプティブ製品の価格設定というマーケティング上の概念をご紹介したいと思います。
『コトラーのマーケティング入門』に紹介されている事例を取り上げれば、ポラロイド社はカメラ本体に低い価格設定をした上で、フィルムの販売で高い利益を獲得しています。また、ジレット社はカミソリ本体の価格を抑えて、替え刃の価格を高くすることにより利益を得ています。これらの例の場合、フィルム、替え刃にあたるのがキャプティブ製品と呼ばれ、主製品とキャプティブ製品の全体での利益確保を目指し、二段階の価格設定を行うことを、キャプティブ製品の価格設定と呼びます。主製品の価格を抑えるのは、当然新規顧客を呼び込むためであり、また、トータルの利益はキャプティブ製品により補完されるため、こうした価格設定が可能となります。
日経ビジネス文庫の『キャノン式』においては、カメラメーカーとしてスタートしたキャノンが、「我々はフィルムメーカーをもうけさせているだけではないか」との思いから、トナーというキャプティブ製品を抱える複写機製造に進出した経緯が冒頭に描かれています。
携帯電話においても機種変更の場合よりも新規購入の方が価格が安くなるのは、やはり広義の意味でキャプティブ製品である「通話料」が控えているからです。ただし、携帯電話ビジネスの場合、携帯端末の製造を担う企業と通話料を受け取る企業が異なるところに、深刻な問題があります。
携帯電話各社は通話料の確保のために、熾烈な携帯端末の価格競争を繰り広げていますが、その皺寄せは、本日の報道から見る限り、ほとんど端末メーカーにきています。この『携帯大国』と称される日本において、最大手の端末メーカーであるNECが約200億円の営業赤字に転落するという事態は、海外事業不振に主因があるとはいえ、ただごとではないでしょう。端末メーカーの新機種開発のインセンティブが大きくそがれていることと思われます。
日経新聞の記事の最後には端末メーカーの再編の可能性が示唆されています。その再編の方向性の一つとして、携帯電話各社が端末メーカーを内部に取り込むという方向性も、合理的な解の一つではないかと私は思います。
本日の日経新聞3ページでは、最近のデジタル家電を取り巻く厳しい経営環境に対する各社の取り組みに対する、なかなか興味深い分析がなされています。製品の価格下落に耐えて業績を維持した企業は、以下の3つの戦略をとっていたというのが日経新聞の分析です。
①収益の分散化
②部品の内製
③汎用製品ではなく特化製品にシフト
いずれも興味深いポイントではありますが、本日は二番目の内製化にしぼって考えてみたいと思います。
部品を内製するのではなく外注することによるメリットというのも、当然ながらあります。ここ10年くらいのことだと思いますが、コア・コンピタンスという流行の経営用語に後押しされ、企業は自社が強みを持つ分野に経営資源を集中し、それ以外の不得意な分野は外注し、外に出してしまおうという大きな流れがありました。自社のコア・コンピタンスを絞り込み、それ以外を全てアウトソースした究極の企業形態として注目を浴びたのがバーチャル・コーポレーションという概念です。
反面、外部に出してしまうと、その企業によるコントロールが弱まってしまうというデメリットが存在します。デジタル家電製品の価格下落というのは、企業にとってみれば外部環境の問題で、企業のコントロールの及ばない領域です。しかし、販売量は増加しているのですから、ビジネスチャンスは大いにあるわけです。そうした場合、企業のコントロールの及ぶ内部環境での経営努力により、外部環境から受けるダメージを最小限に食いとどめることが可能です。
この環境で増益を達成したシャープは液晶パネルという中核部品を内製しているため、価格下落を受けて、いち早くコスト削減に取り組んだため、苦境の中増益を達成できたと考えられます。対して、液晶パネルを外注しているソニーにできることは、外注先への価格交渉に限られ、それがソニーの原価に反映されるまでには、内製化している場合に比べ、著しく多くの時間を要してしまいます。
ソニーの井原副社長が「ユーザーの目線に立っていたか、何を守り何を捨てるかで過去に戦略的誤りがあった」と発言したとの報道がありましたが、「何を守り何を捨てる」という部分には、部品の内製化という問題も意識していると思われます。本日の日立がプラズマパネル生産会社を完全子会社するという動きも、部品の内製化に関わる軌道修正と考えられます。今まで全社の戦略レベルでの判断なしにアウトソーシングを推進してきた企業も、この流れを受けて軌道修正を推進する動きが今後増加するのではないかと、私は予測します。
部品を外注するという決断をした場合でも、中核技術を手放さないでメーカーの作成した設計図で外注先に製造させる貸与図方式と呼ばれる手法と、外注先に全面的に設計までも行わせる承認図方式と二種類の方法があり、日経ビジネス人文庫の『トヨタを知るということ』には、トヨタが両方式をうまく使い分けているさまが描かれています。中小企業診断士試験を受験される方は、2つの用語だけでも頭の片隅にとどめておくと、よいかもしれません。
米SBCがAT&Tを買収するとの報道です。以下に、NIKKEI NET記事の概要を引用させていただきます。
(引用始)
『米通信2位のSBCコミュニケーションズは31日、同3位で長距離通信最大手のAT&Tを買収することで合意したと発表した。買収額は160億ドル(約1兆6500億円)。両社の2004年売上高の単純合計は713億ドル強と、ベライゾン・コミュニケーションズを抜き米最大の通信会社となる。1984年の分割まで米通信市場を独占していたAT&Tだが、通信自由化に伴う競争激化で業績が悪化していた。』
(引用終)
本日日経新聞3ページには、分割後のAT&Tの20年の歴史がコンパクトにまとめられていますが、「おしん」の生涯を連想させるような、激動の20年といった感じです。
本日は、企業買収時における企業価値の変化について取り上げてみたいと思います。一般的には、A社とB社が買収により一社になるときには、両社の企業価値の単純合計値より増加することが多く、その単純合計への上乗せの源泉となるのが両社のシナジーです。Ross, Westerfield, Jaffe著のCorporate Finance(2nd edition)というファイナンスの教科書(最近同6版の翻訳がきんざいより出版されたようです)によれば、そのシナジーの源泉は主に4つであるとしており、以下細かく見ていくこととしましょう。
①収益の増加
買収により売上高の増加を期待することができます。例えば本日のSBCとAT&Tでは、AT&Tの持つIP電話の技術をSBCの持つ顧客網に販売していく可能性が示唆されています。
②コストの削減
製造業であれば、企業の統合により生産量が増加して、規模の経済の恩恵に与り、1製品あたりの平均製造コストを削減することが可能です。本日のSBC、AT&Tは製造業ではないため規模の経済が働くことは考えにくいですが、間接部門(経理・人事・システム等)の統合により、コストの削減が実現することが期待されます。
③税務上のメリット
被買収企業が損失を垂れ流しているような場合は、その損失を法人税の軽減のために活用することが可能です。
④資本コストの低減
一般的に、企業規模が大きくなるほど、資本コストは低減すると言われています。資本コストは企業価値を算出する際に使用する割引率ですから、割引率である資本コストが低下すれば、企業価値が増大するのは、ご納得いただけると思います。