「カナチュウ」と聞いてそれがバス会社であることを即座に認識できるあなたは、間違いなく神奈川県民である。正しくは「神奈川中央交通」。もちろん、「ピカチュウ」なんぞが登場する何十年も前から、この愛称で親しまれてきた。私は、ここ十年近く「カナチュウ」に乗ったことがないので最近の事情にはうといが、昔のカナチュウバスは、例えば210円の料金を払うのに10円玉がないときはどうするかといえば、100円玉1枚を「両替機」に投入して10枚の10円玉を受け取った後、その内の1枚と100円玉2枚を合わせて料金箱に入れるという、実にカスタマー・アンフレンドリーなシステムを採用していたのである。間違えて料金箱に3枚の100円玉を入れた私は、運転手から説教をくらい、自分の後ろにはいらだつ常連客の長蛇の列ができるというトラウマ(心的外傷)が形成されてしまったため、カナチュウにはもう関わりたくないというのが本音である。
そんなカナチュウが本日の日経金融新聞の『決算ピックアップ』のコーナーで小さく取り上げられていた。2005年9月期の純利益が最高益を更新したとのことであるが、その理由は以下のように記述されていた。
(引用始)
『ただ最高益は景気回復だけの果実ではない。陸運各社が燃料費高騰にあえぐなかで、昨年石油デリバティブを導入。燃料費は三割程度負担が軽減した。「燃料費が高騰する前に導入してよかった」と笑顔で語っていた。』
(引用終)
「カナチュウ」に石油デリバティブ。なんともいえない違和感を覚えてカナチュウの個別財務諸表の開示資料を覗きに行くと、そこには「オイルアベレージスワップ」なる耳慣れない言葉が記載されている。「オイルアベレージスワップ」でググってみても、4件しかヒットせず、しかも皆カナチュウの財務情報であるので、金融機関の商品名をそのまま記載したと思われるが、恐らくプレーンなコモディティスワップのことと推測される。
原油を対象とするプレーンなコモディティスワップだとすれば、仕組はそう難しいものではない。カナチュウは金融機関との間で「カナチュウがあらかじめとりきめた原油の固定価格を金融機関に支払い、逆に金融機関が原油の変動価格をカナチュウに支払う」との取り決めを結ぶ。この契約とは別に、カナチュウはバスの燃料代としてガソリンを購入せねばならず、その価格は市況に応じて変動している。したがって、金融機関からの原油の変動価格の受取と、ガソリン代の支払いとしての変動価格の支払いが打ち消され、残るのは原油の固定価格の支払いのみである。したがって、ライバルが燃料費高騰にあえぐ中で、カナチュウは燃料代を固定化できていたため、カナチュウの福山常務が笑顔で語るわけなのである。なお、この仕組をわかりやすく図示したものがUFJ銀行のサイトにあるため、興味のある方は参照されたい。
カナチュウのこのスワップ契約がいつまで続くのは開示情報からは不明だが、このようなヘッジ取引を行う企業はあまりなく、カナチュウの決断は優れていたといえる。なぜ、ヘッジ取引が浸透しないかといえば、予想と逆にふれたとき(原油安になったとき)、ヘッジしていない企業が得をし、金融機関に手数料を払ってまでヘッジをしたことが無意味となってしまうからである。加えて、ヘッジ取引の手段として使用されるオプションやスワップという商品のリスク管理が難しいという問題もある。
大手の自動車各社にしても、決算の最大の変動要因が為替であることからしても、せいぜい売上から回収までの短期間のヘッジ目的での為替先物くらいしかメインに活用されていないのであろう。規模が比較的小さな企業は、今回のカナチュウのような比較的単純なデリバティブの導入が功を奏すことが多い。また、取引が複雑化した大企業においては、包括的なリスクマネジメントという観点から哲学的に考え抜けば、新たなヘッジの枠組みが生まれるのではないかという気がする。
天候デリバティブ商品が好調であるとの報道が本日の日経新聞にありました。天候デリバティブ商品に関するエントリーは、1年前のものがありますので、そちらをご参照下さい。
さて、新聞記事中には、「地震デリバティブ」なる、私にとっての初耳の用語がありました。地震といえば「地震保険」というのが定番です。地震保険と地震デリバティブはどう違うのかと思って調べてみたら、こちらのサイトによくまとまっていました。両者の違いの最も重要な点は、実損填補をするか否かという点です。損保会社では、実損填補をしない商品には「デリバティブ」という名前をつける、というネーミングスタンダードが定着してきているようです。ですから、損失がでていようがいまいがに係わらず、気温が一定値を上回っていたり下回っていたりしたら、お金を払うのが「天候デリバティブ」であり、地震で家が壊れていようがいまいがお金をもらえるのが「地震デリバティブ」なのです。
ですから、さきほで紹介したサイトにも書いてありますが、地震デリバティブがリスク・マネジメントの一環として意味を持つのは、間接的な損失に備えるためです。例えば、地震の心配のない北海道(本当はどうかよく知りませんが)に工場や本社を持つ企業が、その売上の9割方が静岡県に依存しているような場合、東海大地震が来てしまった場合、地震保険に加入していてもお金は一切入りませんが、地震デリバティブなら、お金が入ってくるのです。
しかし、しばらく前のニュースで、「損保会社が最近地震保険への加入を引き受けなくなってきている」というのを目にしており、こういう報道が出始めると、「そろそろ本当に大地震がくるんだなー」と実感させられますね。
貿易保険の規制緩和の流れを受けた報道が、ここ数日の間に3件ありました。以下に簡単に引用しておきます。
3月28日 東京三菱銀行(NIKKEI NETより)
(引用始)
『経済産業省が所管する日本貿易保険は東京三菱銀行と提携し、貿易保険制度を活用した中小企業向けの新型融資を始める。商品を輸出する中小企業が代金を回収できなくなるリスクを補償するとともに、輸出債権を担保に銀行が融資をして、資金繰りを円滑にする。4月末から取り扱いを始める。 』
(引用終)
3月31日 東京海上日動火災(NIKKEI NETより)
(引用始)
『損害保険最大手の東京海上日動火災保険は30日、4月にも貿易保険の引受業務に乗り出す方針を明らかにした。貿易保険は政府の規制緩和策で民間開放が決まっており、これに基づく参入第1号となる。欧州の大手保険会社と提携して輸出先企業の信用情報を充実させるほか、保険契約手続きを大幅に簡素化することで顧客の拡大を目指している。 』
(引用終)
4月4日 日本貿易保険(NIKKEI NETより)
(引用始)
『独立行政法人の日本貿易保険は2007年4月をめどに、貿易保険のうち業界団体と契約する「組合包括保険制度」を見直す。現在は業界団体のすべての加盟企業に同じ保険を適用しているが、企業ごとに保険をかける製品などを選べるようにする。企業は保険の範囲を狭めるとこれまでより保険料が安くて済む。貿易保険は民間保険会社の参入解禁が決まっており、今回の見直しは規制緩和の効果といえそうだ。』
(引用終)
全く、異なる分野ではありますが、住宅ローンについても将来的な公庫の廃止を受けて、民間金融機関が競うように新商品を開発した経緯が連想されます。輸出に携わる中小企業の方は、今後新商品の動向を注視し、有利な保険商品を選択できるよう情報収集を怠らないように努める必要があります。
また、最後の報道は企業側に保険選択の自由が認められる、との趣旨のものです。こうした場合に必要となるのがリスクマネジメントの視点です。すなわち、自社の貿易に関わるリスク要因をしっかりと識別した上で、必要な保険を選択していく必要があります。保険料を削減するために、保険を選択しないという選択もありえますが、その場合はリスクを外部に出さずに自社で受けることを意味するので、万一の場合に、耐えうる財務状況にあるのかを検討した上で、意思決定を下すべきでしょう。
損保ジャパンが中小企業の無料のリスク診断を行うとのプレスリリースです。以前、当サイトにて損保ジャパンの天候デリバティブに関して紹介させていただきましたが、この2つの商品を見る限りでは、損保ジャパンの戦略には大企業で活用されているリスクマネジメント手法を中小企業の手の届くものにしていこうという意図が見られ、これは私が志すビジネスのスタイルでもあり、個人的に大変好感が持てます。先日紹介した東京三菱銀行のデリバティブを駆使したローンといい、中小企業といえど、最先端の金融技術と無関係ではいられません。
大企業では、リスク管理を総合して扱う部署を設置するところも多くありますが、中小企業ではリスク専任の人材を配置する余裕はありません。無料でレポートを作成してくれるのですから、関心のある企業は是非コンタクトなさるとよろしいと思います。
ただ、こうした「無料のコンサルティング」を受けるにあたって注意せねばならないのは、無料でコンサルティングを行えるのは、保険料にその分のコストが上乗せされているという点です。こうした企業の従業員に悪意がある人がいるなどというつもりはありませんが、仕組みとして保険金額を多くすればするほど、無料のコンサルティングのコストを回収できるようになっています。したがって、診断の結果として加入すべき保険を提示されたなら、その保険金額は妥当であるのか、ご自身で厳しく判断する必要があります。
天候デリバティブが東京金融先物取引所に上場されるとの日経1面の報道です。「天候デリバティブ」とはなにかについては弊社の過去記事に説明がありますので、そちらをご参照下さい。同過去記事はアクセス数が比較的多く、再び取り上げさせていただきました。
本日は別の角度からこの記事を見てみたいと思うのですが、この上場される天候デリバティブの利用者について損害保険会社を想定しているという点に引っ掛かった方が多いのではないかと思われます。日経新聞の図には、ゴルフ場などの最終利用者が損保会社と契約を結び、損保会社が東京金融先物取引所とヘッジ取引をする図が書かれています。これをみて「猛暑や冷夏をヘッジしたい中小企業などが損保会社を通さず、東京金融先物取引所と直接取引したら、中間マージンをとられず安上がりになるのではないか?」と疑問を持たれる方がいるのではないかと思われます。
実は損保会社を通さず東京金融先物取引所と直接取引した方が安上がりという点では正解なのですが、それでも中小企業が東京金融先物取引所と取引することはお勧めできません。その理由は損保会社が提供する「天候デリバティブ商品」はオプションタイプであり、上場される天候デリバティブは先物であるという違いによるものです。
損保は保険会社なのですから、保険料を支払えば困ったときだけ保険金を返してくれます。「猛暑デリバティブ」商品を損保会社から買えば、猛暑になったときだけ保険金をくれて冷夏のときは、支払った保険料は返ってこない、ということになります。
ところが、上場される先物タイプの天候デリバティブだと、先物を買っておけば、確かに猛暑になったときは高くなった先物を売却してお金が入ってくる点は同じですが、逆に冷夏になった場合、先物が値下がりしていて、損を被ることになるのです。もしゴルフ場が先物タイプの天候デリバティブを購入したとすると、猛暑の場合減収分を先物の売却益でカバーできますが、冷夏の場合、せっかく客数増による増益があっても先物で損をするので、猛暑になっても冷夏になってもトントンです。これでは商売をする意味がありません。
そのようなわけで、一般の事業法人が東京金先取引所の天候デリバティブを活用することはお勧めできないのですが、もし同取引所でオプションタイプの商品が上場されれば、これは検討に値します。ただ、損保会社側はこうした動きには当然反発してくるでしょう。
しかし、「谷連覇・野村3連覇」というニュースがありながら、この記事がトップになるあたり、やはり日本経済新聞ですね。
損保ジャパンから夏季限定の天候デリバティブ商品が3種類発売されるとのプレスリリース。天候に業績を左右される中小企業経営者に是非活用していただきたい商品である。
デリバティブなどという難しいものは中小企業が使うべきものではないのではないか、とお考えの方もいるかもしれないが、損保会社から発売されているのであるから、損害保険の一種と考えていただければよい。天候デリバティブの仕組みの概要をコンパクトにまとめたこのサイトの説明文を引用させていただく。前もって料金(保険料にあたる)を払っておくと、気温や雨量などが一定の条件を満たした場合に、払った料金の何倍かのお金(保険金にあたる)を受け取ることができる、という仕組みだ。損害保険と違うのは、契約者が損害を受けたかどうかと関係なく、天候という外的な条件が満たされればお金が支払われるという点だ。そのため、煩雑な手続きが要らず、利用しやすいというメリットがある。
損保ジャパンの商品は冷夏に備える「冷夏デリバティブ」猛暑に備える「猛暑デリバティブ」長雨に備える「日本晴れ(夏休みプラン)」の3種である。対象企業に海の家、ビアガーデン、プール等が明記されており、1口の金額が10万円というのも加入を容易にしている。
ここで、損保側の経営を考えてみると、「日本晴れプラン」を除いて考えると、「冷夏デリバティブ」と「猛暑デリバティブ」を揃えて販売するのは幅広い販売先を開拓するという意味と、損保会社側のリスクヘッジの意味合いがある。つまり、冷夏になれば冷夏デリバティブの顧客に保険金を支払わねばならないが、猛暑デリバティブの保険料はまるまる損保側のものとなり、逆の場合もしかりである。(金融オプション戦略から類推すればショートストラングルのポジションを損保ジャパンはとっているといえるのかもしれない。)
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