2007年01月15日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


中国 「安かろう悪かろう」からの脱皮の兆し

1月下旬から、また忙しくなることが予想されるため、書けるときにたくさん書いておいて、今のうちにできるだけ自分の頭の中をすっきりさせておこうと考えています。
今日引っかかったのは、本日の日経新聞の38ページの社会面の小さな記事。ミスタードーナツのなんだか美味そうな商品名「もちもちくるみ」につられて記事に目がとまった。小石のような異物が混入していたとのことであり、その原因について触れた一文が感慨深い。

(引用始)
『原料のクルミは米国で収穫、殻割りした上で中国と日本の二工場に分けて選別するが、中国では行っているエックス線検査が日本の工程にはなく、原料についていた小石が除去されなかった可能性があるという。』
(引用終)

中国ではエックス線検査を行っているが、日本では行っていない。一瞬、これは何かの間違いかと思ったが、以前なにかのテレビ番組でみた、中国の骨なし魚製造工場のことを思い出した。Wikipediaのリンクをはっておいたが、そこにも書いてあるように、骨なし魚は魚から骨をピンセットで人が抜き取り、接着剤で形を整えられ、最後にエックス線検査にかけられる。そして、Wikipediaの記事には書いていないが、このピンセットで骨を抜くラインに配される工員というのは、選りすぐりのエリートを充当している、と番組で紹介されていた記憶がある。この種の仕事に対して、高いモチベーションを持って取り組む日本人はおそらくほとんどおらず、いたとしても人件費は高くなる。中国では人材の質の高さと、エックス線検査という設備投資をプラスしながら、依然として価格競争力を維持している。
これは推測の域を出ないが、「もちもちクルミ」だけのために(どれだけの人気商品なのか全く分からないが)エックス線の設備投資を行うことは考えがたく、骨抜き魚製造のような業務を請け負う工場が自社の技術を活かして、扱う商品の幅を拡大したのではないかと思う。もしこの推測が正しいのであるとすると、中国は日本の特定の大きなメーカーの外注企業としての地位を脱皮しつつあり、自らのコアコンピタンスを確立して積極的な営業を行い、低賃金のみが競争力であった段階を抜け出して、規模の拡大によるコストメリットを享受しつつある段階に入っているということになる。また、「食の安全性」が若干ヒステリック気味に声高に叫ばれる日本において、この中国の工場は既に「安全性」という観点から、日本のマスメディアを活用して、ほとんどコストをかけずに、高いブランドイメージを構築することに成功してしまった。もう、中国製品を「安かろう悪かろう」の眼差しで眺めていたら、日本企業は完全に国際競争力を失ってしまうことであろう。
こうした工場と真っ向から勝負しようとすると、今回のように「エックス線検査工程を省略する」といった具合に、質を落さざるを得なくなり、それは長期的には得策ではない。日本企業が「品質」だけで中国企業に優位に立てる時代は、そろそろ終焉に近づいているのかもしれない。

Posted by Ken Kodama at 10:06 | Comments (2)

2005年06月16日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


キャノンはすごい

キャノンがプリンターのインクカートリッジを生産する工場を800億円かけて大分県に建設するとの報道です。キャノンの動きに関しては当ブログで度々とりあげてきましたが、いい機会ですので、ここでその内容を振替っておきたいと思います。

キャノンの生産戦略に死角はないのか?

まず、上記のエントリーでとりあげたのは、キャノンの生産無人化の動きです。キャノンといえば、セル生産方式が成功した企業として有名だったのですが、その成功体験に満足せず、生産無人化という、より高いリスクテーキング志向の道を歩みだしたわけです。

金型内製

そして上記エントリーでとりあげたのは、いわゆる内製化の問題です。ソニー等名門企業がデジタル家電で苦しんだ、その最大の理由の一つが、部品の内製化率が低くなったことだといわれました。(詳しくは『デジタル変調と「内製化」』を参照して下さい。)そんな折、発表されたのが、キャノンによる金型の内製化でした。
そして、今回の工場設立の報道におけるキーワードの1つが、製造業の国内回帰です。今回のエントリーでは「製造業の国内回帰」という個別の問題を考えることはせず、タイトルを「キャノンはすごい」としたのは、こうした大胆な生産戦略を描ける経営陣の柔軟な思考そのものに焦点を当てたいからです。
キャノンの生産無人化の方針を「すごい」と私が思うのは、セル生産方式という人に焦点を当てた生産方式の成功体験を、ある意味否定しているからです。また、内製化や国内回帰の決断を「すごい」と私が思うのは、他の企業がコスト削減でアウトソーシングや海外生産を推し進める中、いち早くその方向性の問題点を見抜き周りの流れに左右されずに独自の決断を下したからです。「時期尚早」のツルの一言で会議が流れる、横並び志向の企業では絶対にできない決断です。
また、これら3つの生産戦略は莫大な投資を伴う、非常にリスクの高い戦略です。これほどまでに果敢にリスクテークする日本の企業を、私は他に知りません。莫大な投資でリスクテークできるその背後の理由は、①事業の選択と集中が的確で、②選び取った事業で競争に打ち勝ってきているからこそ、リスクテークできるのです。トヨタは細かいカイゼンの積み重ねであそこまで達しましたが、キャノンは大胆な自己変革で急成長し、両者のアプローチは大きく異なり、経営陣としてどちらを賞賛すべきかといえば、やはりキャノンでしょう。
最後に細かい点を一点。キャノンの営業利益の6割を消耗品が占めるとの記述が日経新聞にありましたが、これについては以下のエントリーをご参照下さい。

携帯電話とキャプティブ製品の価格設定

Posted by Ken Kodama at 20:10 | Comments (0)

2005年03月01日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


「サプライ」がアキレス腱に

トヨタがJR貨物、日本通運と組み、2006年秋から専用貨物列車を使って自動車部品の輸送を始めるとの報道で、背後にあるのは二酸化炭素排出削減という環境上の要請です。
これまで自動車業界に関連するエントリーをいくつか書いてきましたが、どうやらキーはサプライにあるようです。新潟の震災でにわかに注目を浴びた製造業のBCPですが、製造業のBCPを厄介にしているのは複雑なサプライチェーンを有しているからに他なりません。また、鋼材の需給逼迫も当然ながらサプライの重要な問題ですし、今回の環境への配慮からのロジスティクスの見直しも、やはり「サプライ」に包含される問題です。以下は当サイトの関連するエントリーです。

自動車鋼材需給ひっ迫とSCMの更なる深化

製造業のBCP

SCMとBCPは両立するのか ~LNG輸出の削減~

トヨタのカンバンシステムはサプライが円滑であることを暗黙裡の前提としてきましたが、この基盤を揺るがすような大きな潮流が続くようであれば、場合によっては、生産管理の思想までも根本的に見直す必要が生じてくるのかもしれません。今回の物流と二酸化炭素排出の問題にしても、在庫を抑えようとすれば必然的に輸送回数は増加し、本質的には在庫低減と二酸化炭素排出の抑制は相容れないものであるはずです。
こうした深遠な問題に「購買」「生産管理」といった部門毎の縦割り組織で対応しようとすると、必ず矛盾が生じるものです。奥田-張体制は私の印象では販売・グローバル展開に重点を置いていた感がしますが、渡辺新社長が取り組むべき課題はトヨタの根源に迫るもので、そうした意味では社長交代、役員一新のタイミングは正に時機をとらえたものであったといえるでしょう。
カンバンを更に進化させていくのか、あるいは新しい世紀にふさわしい生産体制を築いていくのか、いずれにせよ、今後もトヨタの動向から目を離せないことだけは確かです。

Posted by Ken Kodama at 20:56 | Comments (0)

2005年02月17日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


金型内製

キヤノンと富士ゼロックスはプラスチックの部品を成型するために使う金型の内製化を本格化するとの報道です。この問題に関しては、2月2日に以下の関連エントリーをアップしましたので、ご参照下さい。

デジタル変調と「内製化」

基本的に、ごく最近の製造業のトレンドは内製化にあるわけですが、そもそも、原点に立ち返って、なぜ金型製作は大手メーカーから外出しされたのか、という点について考えてみたいと思います。

【なぜ金型は大手メーカから外出しされたのか】
まず、第一の動機は金型製作費用の変動費化にあるといえるでしょう。基本的には、金型作成費用は大量生産を開始する時点のみ発生します。一年中を通して業務が必要であるわけではないので、そのための人員をプロパーで抱えると無駄な固定費が発生してしまうというのが、金型製作が大手メーカーからスピンアウトしていった経緯であると考えられます。
第二の動機、というよりこちらの方がより重要かもしれませんが、金型製作に関わる技術はメーカーにとってのコアな技術と考えられていなかったという点です。もちろん金型製作には高度な技術は必要ですが、例えばキャノンであれば、キャノンのコアな技術は「インクジェットプリンター」の原理に関わるものであったりして、それをスタンピングする技術を有していても、技術面でのシナジーは得られないと考えられていたのでしょう。

【金型は大手メーカーが内製化すべき工程なのか?】
金型を内製化するということは、固定費をとるということで、オペレーティングレバレッジの追求にあるわけですから、大手メーカーにとってはリスクテーキングといえます。あえて、この分野にリスクテーキングする意義はあるのでしょうか?
今回の報道の富士ゼロックスは、いわゆる変調をきたしている「デジタル家電」のメーカーではありませんが、メーカーが予期し得ないほどの価格下落にさらされている市場においては、費用構造の大部分にコントロールが及ぶようにしておく必要があります。外注の場合は単価の引き下げは価格交渉以外にありえませんが、内製化すれば販売価格の下落を受け、速やかにコスト削減をリードしていくことが可能となります。
また、新聞にも指摘されていますが、内製化すれば同一企業内のオペレーションとなるわけですから、製品ライフサイクルの短期化に対応してより機動的に商品開発・生産を実施することが可能となります。
したがって、製品ライフサイクルが短期化し、販売市場の価格の不透明という外部環境の変化があったわけですから、金型内製化という方向転換は意味のある行動ということができるでしょう。

【中小金型メーカーの取るべき道】
こうした内製化の大きな流れの中で、中小金型メーカーは、経営上に不安を抱えているのであれば、大手メーカーへのより有利な条件での身売りを考えることも一つの方向性です。買い手側に株式売却価格の主導権を握られてしまわぬよう、中小企業を対象としてM&A業者に依頼をもちかけるのも一つの選択肢でしょう。
しかし、それでも、やはり独自の経営にこだわるのであれば、さきほど述べた①機動的な開発サイクルと②コスト削減の迅速化への、なんらかの対策が必要となります。前者については、大手メーカーとのデータ連携を推進したり、後者については、同業他社との連携により規模の経済の確保、といった視点を経営にとりいれていく必要があるといえるでしょう。

Posted by Ken Kodama at 10:22 | Comments (0)

2005年02月02日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


デジタル変調と「内製化」

本日の日経新聞3ページでは、最近のデジタル家電を取り巻く厳しい経営環境に対する各社の取り組みに対する、なかなか興味深い分析がなされています。製品の価格下落に耐えて業績を維持した企業は、以下の3つの戦略をとっていたというのが日経新聞の分析です。
①収益の分散化
②部品の内製
③汎用製品ではなく特化製品にシフト

いずれも興味深いポイントではありますが、本日は二番目の内製化にしぼって考えてみたいと思います。
部品を内製するのではなく外注することによるメリットというのも、当然ながらあります。ここ10年くらいのことだと思いますが、コア・コンピタンスという流行の経営用語に後押しされ、企業は自社が強みを持つ分野に経営資源を集中し、それ以外の不得意な分野は外注し、外に出してしまおうという大きな流れがありました。自社のコア・コンピタンスを絞り込み、それ以外を全てアウトソースした究極の企業形態として注目を浴びたのがバーチャル・コーポレーションという概念です。
反面、外部に出してしまうと、その企業によるコントロールが弱まってしまうというデメリットが存在します。デジタル家電製品の価格下落というのは、企業にとってみれば外部環境の問題で、企業のコントロールの及ばない領域です。しかし、販売量は増加しているのですから、ビジネスチャンスは大いにあるわけです。そうした場合、企業のコントロールの及ぶ内部環境での経営努力により、外部環境から受けるダメージを最小限に食いとどめることが可能です。
この環境で増益を達成したシャープは液晶パネルという中核部品を内製しているため、価格下落を受けて、いち早くコスト削減に取り組んだため、苦境の中増益を達成できたと考えられます。対して、液晶パネルを外注しているソニーにできることは、外注先への価格交渉に限られ、それがソニーの原価に反映されるまでには、内製化している場合に比べ、著しく多くの時間を要してしまいます。
ソニーの井原副社長が「ユーザーの目線に立っていたか、何を守り何を捨てるかで過去に戦略的誤りがあった」と発言したとの報道がありましたが、「何を守り何を捨てる」という部分には、部品の内製化という問題も意識していると思われます。本日の日立がプラズマパネル生産会社を完全子会社するという動きも、部品の内製化に関わる軌道修正と考えられます。今まで全社の戦略レベルでの判断なしにアウトソーシングを推進してきた企業も、この流れを受けて軌道修正を推進する動きが今後増加するのではないかと、私は予測します。
部品を外注するという決断をした場合でも、中核技術を手放さないでメーカーの作成した設計図で外注先に製造させる貸与図方式と呼ばれる手法と、外注先に全面的に設計までも行わせる承認図方式と二種類の方法があり、日経ビジネス人文庫の『トヨタを知るということ』には、トヨタが両方式をうまく使い分けているさまが描かれています。中小企業診断士試験を受験される方は、2つの用語だけでも頭の片隅にとどめておくと、よいかもしれません。

Posted by Ken Kodama at 10:16 | Comments (0)

2005年01月19日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


製造業のトレーサビリティー

日産自動車が、自動車部品の詳細なトレーサビリティーを世界で展開するとの報道です。食品がらみで、トレーサビリティ(追跡可能性)という言葉自体はお茶の間まで浸透した感がありますが、製造業で部品単位のトレーサビリティを展開するというのは、私には初耳です。このシステムによるメリットですが、日経新聞一面には以下の記述があります。

(引用始)
『新システムではリコール実施の際に該当車種を探し出し、確実な部品交換が容易になる。不具合の発見された部品だけを交換することもでき、対策コストを最小限に抑えられる利点もある。製造物責任の所在を明確にできる。また消費者が今月からフロン類など三点の処理費用を負担している自動車リサイクル法の対象範囲が今後広がった場合、部品の素材が分別しやすい。他の製造業にも波及する可能性がある。』
(引用終)

最大の金銭的メリットはリコールコストの最小化でしょうが、その他非定量的なメリットとして、消費者からの信頼性の向上等も期待できるでしょう。システム導入コストを除けば、このシステムからのデメリットは考えられず、昨今の潮流から考えると、上記に引用した文末にもあるとおり、「他の製造業に広がる可能性」というのは、私は必至であると思います。
トレーサビリティという概念自体については、アカウンティングに深く関わってきたため、私には馴染みが深い概念ですが、その体験から、今後トレーサビリティ・システムの導入を考える製造業者にアドバイスを申し上げるとすると、シンプルですが、「まず導入の目的を明確にすること」が最も大切な心構えです。
「トレーサビリティ」というものを考え始めると、完璧主義的思考に陥りやすく、「全て追跡可能に」を目指してしまうことがよくあります。しかし、「なんのためにトレーサビリティを導入するのか」ということを最初に明確にしておけば、導入コストを最小限に抑えることが可能です。例えば、日産の例で言えば、リコールコストを最小限に抑えることが主目的なのですから、車内のカップホルダー等に履歴番号を付与することは無意味といえます。
次に大切なことは、「トレーサビリティ・システムに基づいてアクションをとれる体制を整える」ことです。システム導入により問題のある工程が特定できるのか、その工程を改善することは可能なのか、そうしたアクションを取ることができないのであれば、システム導入の効果は激減してしまいます。
第三のポイントはトレーサビリティ・システムを使用するユーザーのトレーニングを徹底的に行い、ユーザーへの啓蒙をきちんと行うという点です。若干、本日の報道とは話がずれますが、以前、管理会計目的で経費を伝票レベルまでさかのぼることができる簡易なアプリを作成したことがあるのですが、システム・ユーザーへの啓蒙・教育が不徹底であったため、システムがほとんど使用されない、といった経験を昔したことがあります。導入効果をフルに発揮するには、ユーザー教育が不可欠です。
色々書きましたが、一消費者の視点からすれば歓迎すべき動きで、こうした動きが広まっていくことを期待したいと思います。

Posted by Ken Kodama at 16:17 | Comments (0)

2004年12月08日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


SCMとBCPは両立するのか ~LNG輸出の削減~

最近、このエントリーを書く際のポリシーとして、できるだけ日経新聞で大きく取り上げられた記事に関するレビューを書こうと努めております。日経新聞の編集に私が踊らされているのか、本日のトップを飾ったインドネシアのLNG輸出削減の報道にしても、先日取り上げた自動車鋼材の問題にしても、昨日の信越化学の動きにしても、共通するテーマはサプライ(調達)のリスク管理といえるでしょう。
近年のSCM(サプライチェーンマネジメント)の潮流により、製造業は一企業のみならず企業グループ間での在庫量の削減に努め、今までの手法では得られなかった効率性、ひいては収益性を実現させています。
しかし、収益性と安全性は常にトレードオフの関係にあります。BCP(Business Continuity Plan)とは、災害等の緊急時においても企業活動を継続させていくために、事前に作成される計画のことで、コンティンジェンシープランの一種と考えてよいでしょう。日産も収益性を追及するあまりに鋼材不足での対策が後手に回ってしまいましたが、ゴーン氏はこの課題への対策として後戻りは考えておらず、SCMとBCPの同時追及を模索していく考えのようです。SCMとBCP、すなわち効率性(収益性)と安全性は両立し得るのでしょうか?
こうした、深遠な問題を考えるにあたっては、まず製造業をとりまくリスク要因を明らかにしていくことが有効でしょう。先日紹介した下記の論文では、製造業のサプライチェーンを考える上での今日的なリスク要因を列挙しており、昨今の新聞報道の問題の真因がずばり指摘されている部分もあり有用であると思われるため、以下に拙訳を記しておきたいと思います。

論文(英語) Traditional Threats and New Risk Complexities have Manufacturing Environments Spinning

●東南アジア、東欧、中南米等の新興国のインフラへの依存
●企業の経営システムが機能し得るように情報コミュニケーションシステムを整備しておく必要性
●ジャスト・イン・タイムでの製造をサポートしていく上で、原材料の段階と在庫管理の重要性が増していること
●納期と価格を最優先して単一のサプライヤーに依存してしまった場合に大きな損失を被ってしまう可能性
●地域的な一極集中が高まりすぎてしまった場合のリスク
●バックオフィス機能をアウトソーシングした場合に失われる柔軟性と、増加してしまう依存性
●特に外国のサプライヤーやパートナーと組む時に信頼度と透明性が高い運用手続きを維持すること
●ナレッジ・マネジメントシステムの整備の重要性
●ボトルネックや機能的な相互依存への早急な対処
●インパクトと許容度に応じてリスク要因に優先順位をつけること

今回のLNGの問題に限って言えば、横並びと言われた電力業界にもリスク管理に巧拙が見られ、東京電力や東北電力は調達先の多様化により影響を少なくとどめられたものの、関電は急きょ「他の電力・ガス会社からの融通で賄う」方針を決めたとのことであり、手厳しくいえばこの問題に対して無策であったことが露呈してしまったことになります。
収益性と安全性のトレードオフはビジネスの永遠の課題であり、今にはじまったことではありませんが、時代の変化を受けて、常に最重要な経営課題の一つと位置づけて考え直していくことが重要であると思われます。

Posted by Ken Kodama at 14:29 | Comments (0)

2004年12月07日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


信越化学の塩ビ一貫生産

先日ご紹介した鋼材の需給ひっ迫等に見られるように、にわかに原材料への需要増に対する製造業の対応策がクローズアップされてきた感があります。本日の日経1面では、塩化ビニール樹脂で世界最大手の信越化学工業が米国に、塩ビを原料から一貫生産する大型工場を新設すると報じられました。サプライチェーンの上流を自前で押さえてしまおうというのが、原材料不足問題への信越化学の出した回答なのです。
本日の日経新聞の情報のみを元にすれば、塩化ビニール樹脂の製造過程は以下のように簡略に書くことができます。

岩塩 → 塩素 → 塩ビモノマー → 塩ビ樹脂

この積極的な投資策を財務的な見地から考えてみるならば、他のメーカーから塩ビモノマーを調達する場合と比べて、信越化学が享受するメリットは以下のようになります。
①輸送コストの低減(新工場は岩塩が豊富な地域に立地されるようですから、岩塩の輸送コストが大幅に低減できます。また中間材料である塩ビモノマーも一貫生産するわけですから、その輸送コストも低減可能となります。)
②塩ビモノマー製造の利潤の確保(内製することにより、これまで外部に流出していた塩ビモノマー製造の利潤を内部に確保することが可能となります。)
③将来、需要が増加したときの機会損失の極小化(全部自前で生産してしまうわけですから、日産のようにサプライヤーの対応に苦慮し、工場を休止させる必要がありません。)
新聞に「モノマーは長期契約を結んでいる米ダウ・ケミカルから調達してきたが、ダウが一部の設備を縮小・停止するなか・・・」という記述がありました。こういう動きがあるのであれば、ダウの縮小する設備を買い取るというオプションもあったはずですが、それにも関わらず自前生産にこだわるのは、①の輸送コストの問題が結構大きかったのではないかと推測されます。
一方のリスクとしては、需要が減少した場合、塩ビ樹脂メーカーとしての痛手とモノマーメーカーとしての痛手を二重にくらうことです。ただし同社の9月30日時点の連結貸借対照表によれば、その当座比率は170%で過剰ともいえる安全性を有しており、1,000億円の投資後も当座比率は140%にまでしか落ちません。また9,000億円強の自己資本にも支えられており、強固な財務体質を持つ信越化学の今回の積極投資策は高く評価されることでしょう。

Posted by Ken Kodama at 10:31 | Comments (0)

2004年11月26日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


自動車鋼材需給ひっ迫とSCMの更なる深化

トヨタ自動車は鋼材需給のひっ迫が長期化するとみて、アジアの4大鉄鋼メーカーを軸とする鋼材の新たな調達体制を構築するとの報道です。また、昨日は日産の鋼材調達難を背景とした操業停止が報じられました。数年前にゴーン氏が鉄鋼業界に冷たい仕打ちをした反動、といったような浅薄な報道も見受けますが、円高や貿易摩擦等の過去の数々の難題を克服してパワーアップしてきた日本の自動車業界は、今回のこの難題も成長へのバネにしてくれるであろうと期待しています。本日の日経新聞には解決の方向性を示唆する記述がいくつか見られます。順に検討してみたいと思います。
【サプライヤーとの長期的関係の構築】
まず、以下の日経新聞3ページの記述を見てみましょう。
『トヨタは先手を打ち、自動車生産に必要な鋼板を約五百種に絞り込み、その安定供給を新日鉄とJFEの二社に求める。一方でポスコ、上海宝鋼からの調達本格化は長期的に新日鉄、JFEの値上げ要請をけん制する思惑がある。』(引用終)
複数のサプライヤーと長期的関係を構築し、サプライヤー間で競わせるというのはトヨタのお家芸といえるでしょう。日産についても先日の報道で、部品のサプライヤーの選定のあたって、今後は技術力のある部品会社を選び、資本関係を持たないまま長期安定的な「系列関係」を築く方針に転換するとの報道がありました。系列の負の面に苦しめられてきた日産ですから、その反省にたった上で長期的関係をサプライヤーと構築していくことでしょう。
【SCMの更なる深化】
SCMとは、サプライヤーも含めた企業グループで需要予測データを共有し、在庫量などを単一企業レベルではなく、サプライチェーン全体の中での最適化を目指そうとする考え方のことです。トヨタグループなどは、SCMなどという用語が登場する前から、既にこうした考え方で生産を行っていたものと考えられます。ただ、今回の鋼材需給ひっ迫への対応ぶりから推測する限りでは、このSCMの輪の中に鋼材メーカーは含まれていなかったとみるべきでしょう。
SCMを突き詰めて考えるならば、原材料である鋼材メーカー、そして鋼材の原材料となる鉄鉱石まで遡って、サプライチェーンを定義せねばならないでしょう。こうした事態に直面するまでは、SCMを仲良しグループの間でとどめておいた感が否めません。日経新聞には以下の記述があります。
『さらに鉄鋼拡大の足を引っ張っているのが原料に使う鉄鉱石、石炭の不足だ。ブラジルやオーストラリアの資源大手は増産計画を打ち出しているが、中国などいわゆるBRICs地域での鉄鋼生産の拡大に追いつかず「一~二年は需給のひっ迫が続く見通し」(JFEスチール)という。』(引用終)
今回の問題の最も理想的な解決策は、SCMをサプライチェーンの末端まで浸透させることであると考えます。また、このようにSCMを究極まで分解して考えることは、先日のエントリーにて書いたBCP(Business Continuity Plan)を考える上で、有意義であると思われます。
自動車業界がこの逆境をどう切り抜けていくのか、注目していきたいと思います。

Posted by Ken Kodama at 10:09 | Comments (0)

2004年11月22日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


キャノンの生産戦略に死角はないのか?

キャノンが国内生産の4分の1を無人化するとの報道が、本日の日経紙面のトップを飾りました。キャノンといえば、セル生産方式で知られているように、大胆な生産革新で成功を収めている企業です。今回の生産無人化がキャノンの経営に与えるインパクトについて、セル生産方式と対比することで考えてみたいと思います。
【セル生産方式とは?】
まず、セル生産方式自体が初耳の方に、簡単に解説をしておきます。セル生産方式とは、ベルトコンベアを使った分業を否定して、一人一人の組立工が多能工となり、一つの製品の組立ての最後まで、一人で担当させる生産方式のことを言います。「分業」を否定してしまうわけですから、一見生産性が落ちるような気がしますが、導入当初は若干生産性が落ちるものの、セル生産方式の方がベルトコンベア方式より高い生産性を示すことが確認されています。セル生産方式の生産性の高さの秘密は、人間心理にあります。ベルトコンベアの1工程を担わされ、歯車の一つとしての仕事を延々と繰り返すより、ものを1から作り上げる方が得られる満足度は高く、またそれゆえに、品質への責任の意識も徹底されるのです。
セル生産方式を導入するにあたっては、それほど大きなリスクは伴いません。なぜなら、ベルトコンベアを廃し、人員配置を替え、適切な教育を行うことくらいがメインの切り替え作業で、ほとんど追加的な設備が伴わないからです。若干、専用の工具を開発することが必要となるらしいですが、たかがしれています。生産性が上がるか否かが確認できるまでは不安が大きいですが、導入にあたって大きなコストを必要としない、というのがセル生産方式のメリットでもあります。
【生産無人化の成功の鍵 ~オペレーティング・レバレッジ~】
もう一方の生産無人化ですが、生産を無人化できれば、直接工の賃金が不要になるわけですから、製造原価に占める変動費の大幅な削減が可能となります。その一方で、無人化で人にとって代わる機械設備を導入せねばならず、かなりの額の固定費の増加を覚悟せねばなりません。また、この自動化にあたり、キャノンは技術者を追加的に600人採用するとしていますが、これらの技術者も固定費増の要因となります。仮に技術者の平均年収を700万円とすれば、年間あたり42億円の固定費増となります。
生産無人化ではこのように、費用構造が固定費にシフトすることとなり、これはセル生産方式では見られなかった現象です。このように固定費に費用構造を転換し、利益の増加を望もうとする戦略をオペレーティング・レバレッジ戦略と呼びますが、オペレーティング・レバレッジの恩恵に預かるためには、大きな売上高が確保されることが不可欠となります。つまり、大胆な生産戦略でありながら、成功の鍵は売上にあり、魅力的なマーケティングプランがあるか否かが、成功の鍵となっているのです。
またキャノンの御手洗社長はアメリカ流の財務指標を重視した経営を行いながら、終身雇用を維持するというのが彼の信条でもあります。今回の生産無人化でうく組立工についても、人員削減は行わず他への配置転換を行うことが、新聞でも明確に謳われています。ということは、なおさら大きな売上が、成功のために必要となってくるわけです。新経営計画では売上高を1.5倍に増やすとのことですが、どれだけ魅力的な製品を作り出せるかに、かかっているといえるでしょう。
【柔軟性という視点】
また、生産無人化において懸念されることは、生産の柔軟性がいくらか損なわれる可能性があるという点です。今日の経営において、柔軟性はどの部門においても、重要なテーマです。財務においては、柔軟性を積極的に評価するリアル・オプションの手法が開花しつつあります。また、マーケティングにおいては、IT技術を駆使し、一人一人の顧客の要求に柔軟に答えていこうとするワン・トゥ・ワン・マーケティングの手法が主流となりつつあります。
こうした時流の中で、生産を無人化することは、どうしても柔軟性を多少損なうことを覚悟せねばならないでしょう。最近の機械設備は多品種少量生産にも対応しうるときいていますが、キャノンがどのような工作機械メーカーと組むのかという点も、今回の計画の成功を左右する大きな要因となりうるでしょう。

Posted by Ken Kodama at 11:25 | Comments (0)

2004年10月28日

  執筆コンサルタントのプロフィールはこちら
  最近のニュース・レビュー記事はこちら new.gif


製造業のBCP

本日の日経新聞に、新潟地震関連で製造業の経営を考える上で、非常に興味深い記事がありました。
二輪車メーカーにメーターを供給する日本精機の長岡工場が被災したため、同社から部品の供給を受けるヤマハ発動機と川崎重工業の生産ラインが停止するというものです。
両社の組立工場は被災地にはないものの、被災後、比較的早く生産ラインを止めねばならなかった背景として、ジャスト・イン・タイムがあったと日経新聞は指摘しています。在庫を必要最小限に抑えコストを削減する狙いである同手法により、組立工場内の在庫がすぐに底をついてしまったのです。
災害発生時にいかにジャスト・イン・タイムを復旧させるかについて、日経新聞では、トヨタが阪神大震災のときに、サプライヤーへの人員派遣をした事例を紹介しており、「ジャスト・イン・タイムを最後に維持するのは会社と会社のつながりだ」と結んでいます。
災害時にいかにして、事業を継続するかというテーマは9.11のテロ後のホット・トピックでもあり、そうした災害時に事業を継続して行うための計画をBCP(事業継続計画、Business Continuity Planning)と呼んでいます。例えば、東京に進出している外資系金融機関は、都心部での地震やテロに備えて、郊外にデータセンターのようなものを持ち、非常時には誰がその場所に行って作業を行うか、といった計画を用意しています。
金融であれば上記のようにデータをバックアップして、別のロケーションにオペレーションの場所を用意すれば、大方はこと足りますが、製造業の場合はサプライヤーも気にせねばならないため、複雑さは大きく増します。
アメリカでこうしたテーマでの研究がないかとグーグル検索してみたところ、驚くほどたくさんの文献がひっかかりました。以下に、英語文献ですが、いくつかリンクを貼っておきます。

Effective Practices for Business Continuity Planning for Purchasing and Supply Management
Business Continuity for Today's Manufacturing Enterprse
Traditional Threats and New Risk Complexities have Manufacturing Environments Spinning

私も熟読したわけではないのですが、リスクを評価し、リスクコントロールを考え、モニタリングする、というリスク・マネジメントの手法をベースに考えているようで、やはり計画を作成するという点に重きを置いて考えています。またIT技術の活用を指摘する文献も多いようです。
確かに会社と会社の人的つながりが重要であることは否定できませんが、その人的つながりがスムースな復旧をもたらすためには、周到な事前の計画が重要であることを忘れてはならないでしょう。

Posted by Ken Kodama at 19:24 | Comments (0)